約 2,472,042 件
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/478.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1303394673/231-239 今日はあやせの家に泊りに行くことになった。 学校が終わって、本当ならそのままあやせの家に向かうつもりで着替え一式持ってきてたんだけど、 忘れ物をしてしまったのでいったん家に戻ることにした。 家に向かって歩いてると、なんだか頭がふらふらしてきた。 おかしいな、さっきまで体調は万全だったのに。 もうじき我が家というところで、あたしは立ちくらみを起こしてうずくまってしまった…… 「…ちゃん、お姉ちゃん」 誰だろう、あたしをお姉ちゃんと呼んでるのは? ぼんやりした意識が徐々にはっきりしていくと、そこにはあたしを覗き込む京介の姿があった。 あれ、ちょっと待って? なんであたしの目の前にいる京介は、小学生の時の京介なの? 「気がついたのね?」 傍からお母さんの声がした。見ると、お母さんも確かに若い。 「あなたが家の前で倒れていたから、部屋まで運び入れたのよ。 動けるようになるまで休んでいくといいわ」 「ありがとう…ございます」 「京介、ちょっとお姉さんの様子を見ててあげてね」 「うん」 お母さんは部屋を出ていく。 今あたしがいるのは、2階の和室。中学に上がったあたしの部屋としてリフォームされる前の古い部屋だ。 あたし、やっぱり過去にいるんだ。 しかし、それにしても…… 京介の奴、やたらニコニコしながらあたしを見てるんですケド。 「あたしの顔に、何か付いてるの?」 「だって、お姉ちゃんが美人だからさあ」 ちょ、いきなり何言い出すのよコイツ! 「俺も、こんな美人なお姉ちゃんの弟だったらよかったのになあ」 「アンタ…にはお姉ちゃんはいないの?」 「いないよ。妹ならいるけど。今日はおばあちゃんの家に行ってて留守だけどね。 そうそう。俺は京介。高坂京介って言うんだ」 相変わらずニコニコしながら語りかけてくる京介。 「あたしは桐乃、こう…じゃなかった、新垣、新垣桐乃」 とっさにあたしはあやせの苗字を借りる。 「へえー、お姉ちゃんも桐乃って言うんだ。すごい偶然。うちの妹も桐乃って言うんだぜ」 「あらあら、ずいぶん楽しそうにお姉さんと話してるじゃない」 「お母さんお母さん。このお姉ちゃんも桐乃って名前なんだって」 「あらまあ。ところで桐乃さん、あなたのお家には連絡しといたほうがいいかしら?」 「いえ、あの、両親が旅行に出かけてて、家には誰もいないんです。 友達の家に泊まるつもりだったんですが……」 「そうだったの。じゃあもう少し休んでいって、動けるようになったらお友達の家に行く?」 「はい、そうさせて貰います」 そんなこんなで、あたしはもうしばらく休ませてもらうことになったのだけど…… 「桐乃さん、桐乃さん」 お母さんがあたしに声をかける。 「ごめんなさいね。私の親戚が急に倒れたって連絡があって、これから出かけないとならないの。 何か問題があるようなら、うちの京介に言って。 京介、もしお姉さんの体調が急に悪くなったりしたら、隣のおばさんに連絡して助けてもらって」 「分かった。大丈夫だよお母さん」 「隣のおばさんには話しておくから。じゃあ桐乃さん、動けるようになるまで休んでいってね。それじゃあ」 慌ただしく部屋を離れるお母さん。 家には、あたしと京介だけが残された。 「今日はお父さんも出張だから家には俺しかいないんだ」 「そうなんだ。一人で大丈夫?」 「大丈夫だよ。それに、お姉ちゃんもいるじゃん」 「えっ、あたし?」 「お姉ちゃんせっかくだから泊まっていきなよ。まだ動けないんでしょ」 コイツ、何てこと言ってんだか。 でも……小さい京介は……なんだか可愛い……かも あたしの中で、これまでにはなかった「弟」への感情が、少しずつ膨らんでいった。 「あたしが、お姉ちゃんになってもいいのかな?」 「うん、いいよ。よろしくね、桐乃お姉ちゃん」 「うん、京介」 夜になった。あたしと京介は食事を済ませる。 お母さんから電話があって、京介が、あたしが具合が悪いので無理させず家に泊まることになったと説明し お母さんも承知したようだ。 「お姉ちゃん、風呂に入ってくるね」 「はーい」 こんな感じで、すっかり二人は打ち解けていた。 元が実の兄妹なんだから当然と言えば当然なんだけど 京介がお風呂か、お風呂お風呂…… あたしも、いっしょに入っちゃおう、かな。 「京介!お姉ちゃんもお風呂入るねー」 裸になるなりそう言ってあたしはお風呂のドアを開ける。 「わ、わあ、お姉ちゃん何だよ!」 いきなりのことに慌てだす京介。これがまた超カワイイんですケド。 京介は両手で股間を隠していたが、あたしは反ってそこに意識しないわけにはいかなかった…… 「京介、お姉ちゃんが京介の身体を洗ってあげるね」 「いいよ、自分で洗えるから」 「もおっ、アンタは弟なんだから、お姉ちゃんのいうことを聞きなさいよ!」 あたしは思わず大きな声をあげてしまう。 「わかったよ…」 しゅんとなって答える京介。 「いい子いい子。それでこそあたしの弟ね」 いつもと逆の立場で、あたしが京介の頭をなでる。 あたしは京介の背中を洗い終わると、京介のおチンチンに手を伸ばす。 「男の子の大事な場所なんだから、お姉ちゃんが丁寧に洗ってあげる」 「あっ…お姉ちゃん、そこは…」 あたしの手の中で、京介のおチンチンがどんどん固くなっていく。 「もう、京介ったら、おチンチンが大きくなってるよ、エッチなんだから」 「だってお姉ちゃんがいじるから…」 「何言ってんの、洗ってあげてるだけでしょ!」 「いや、でも、あっあっでちゃうっ!!」 壁に向かって勢いよく京介の精液が飛び出す。 「京介、大丈夫?」 思わずあたしは声をかける。 「…大丈夫。それより、今度は、俺がお姉ちゃんの身体を洗ってあげるね…」 「うん…洗って」 京介はあたし同様にまず背中を洗うと、 「お姉ちゃんの、おっぱい、洗うね。」 そう言ってボディーソープを塗りたくると、あたしの胸に手を伸ばしてきた。 「あ、あん」 京介の手の平が、あたしのおっぱいを弄ってる。 もみもみされてる。指が、乳首も撫でてくる。 「お姉ちゃん、おっぱいモミモミされて、気持ちいいの?」 「なんてこと聞いてくんのよ。このエロ弟!あ、あん」 兄貴に弄られてると思うと、感じて、気持ちよくて、乳首も…凄くいい… 「気持ちいいんだよね。だって、お姉ちゃんがいけないんだよ。 先に俺にエッチなことしてくるんだから、仕返しだよ」 京介はあたしに背後から抱きついてきた。だもんで、京介のおチンチンが、あたしのお尻に当たってくる。 「お姉ちゃん、お姉ちゃん…俺、お姉ちゃんにおチンチン入れたい… お姉ちゃんとエッチしたい」 「待って、お願い」 「でもお姉ちゃん、俺、我慢できないよ!お願い、エッチさせて!」 正直、あたしのアソコも熱く、そしてヌルヌルに蕩けていた。 「じゃあ、一つだけ条件を出すから、それを守って。そしたら、入れていいよ」 「守る守る。で、条件って?」 「今からアンタは、あたしのこと、お姉ちゃんじゃなくて桐乃と呼び捨てにしなさい! 決してお姉ちゃんと呼んじゃダメ! 必ず桐乃と呼び捨てにするの!」 「えっ…それは……」 「簡単でしょ、お姉ちゃんの言うこと聞けば、エッチできるのよ!」 「だって、それじゃあ……」 「それじゃあ、って?」 「だって桐乃と言うんじゃ、妹にエッチしてるみたいで」 「ハア?何言ってんの?あたしは本当の妹じゃ……本当の妹じゃないじゃん! アンタの妹はおばあちゃん家なんでしょ。だからいいジャン…… 桐乃って呼び捨てにしなさいよ!!」 こんなこと言ってるけど、あたしは京介に犯されたかった。だから「桐乃」って呼ばれて、犯されたかった… 「…分かった、じゃあ……桐乃…」 「んん、京介のが、入って、入ってくるう」 京介のおチンチンが、あたしの中にゆっくりゆっくり収まっていく。 「桐乃、気持ちいい、気持ちいいよお」 「あんっ、おくに…ついた…京介のおチンチンが」 京介が腰を揺らしはじめた。 「あはっっ…きょう…すけ…やん、激しすぎるよ…エロすぎるよ、きょうすけっっ」 「桐乃、キモチいい、きりののおマンコが、俺のチンチンをぎゅって… 桐乃のほうが、絶対エロいって」 「そんなこと、あっ、ああっ、だめえ…あああっ…ああん」 ずぼずぼと京介のチンチンが出たり入ったりを繰り返す。 キモチいい、すごくいい。 もうたまらない。こんなによくて、もう、どうしようあたし…… 「桐乃、桐乃っ、もうすぐ出ちゃいそうだよっ」 「いい、いいよ。京介の、精液、あたしの中に、出して、てか、出しなさいよっ」 「出しちゃうよ、本当に出しちゃうからね。くうっ、出る……」 ドビュッ ビュッ…… 「ああっ、京介に、あたし犯されちゃった。京介のおチンチンで、あたしのおマンコが犯されちゃった…」 「…ご、ごめん」 「違うの、謝らなければいけないのはあたしなの。 あたしが誘惑したの。ブラコンなエロエロ妹が、京介を誘惑して 興奮しちゃった京介が我慢できずに仕方なくあたしを犯しちゃったの……」 「桐乃、妊娠しちゃうのかな?」 「妊娠しちゃってもいいかも てか、妊娠させて。だってあたし、京介が好きだもん。好き、大好き……」 「ねえ、桐乃?」 「何、京介?」 「桐乃と、キスしたい。いい?」 「……うん、キスして、京介」 「大好きだよ」 「あたしも」 チュゥッッ 甘ったるいキスに、なんだか頭がクラクラしちゃって……… 「…乃、桐乃」 ぼんやりした意識が徐々にはっきりしていくと、そこにはあたしを覗き込む京介の姿があった。 「…京介??」 そこにいた京介は、今の、高校生の京介だった。 「何だよ、人のことイキナリ名前でよびやがって」 あたしは顔が真っ赤になった。 「なんでもない、なんでもないから!」 「分かったよ。分かったからおとなしく寝とけ。 お前が家の前でうずくまってたのを見た時は慌てたわ」 「そうだったんだ、ゴメン、迷惑かけて」 「ずいぶんしおらしいじゃん。こりゃ明日は雪かな?」 「うっさい、早く出てって!!」 「へいへい」 兄貴は出ていこうとするが、あたしは思わず声をあげてた 「あ、あのね」 「何だよ」 「あ、ありがとう京介、すごく…よかった……」 終わりです
https://w.atwiki.jp/vip_oreimo/pages/548.html
【破】 6章 高坂家 リビング PM 2:10 桐乃side 「さっきはごめんなさいっ!!」 あたしはリビングに入ると、お母さんとお父さんに深々と頭を下げる。 しかし、その雰囲気や声には先程までのドロドロとした暗さは微塵も感じられず、 逆に潔ささえ感じられるものだった。 「もう、急に飛び出すもんだからビックリしたわよ。 でもその様子ならもう大丈夫そうね。」 「うむ。桐乃も事故にあって精神的に疲れていたのだろう。」 「そうかもしんない。ほんとごめんね?」 二人から優しい声をかけられて、正直ホッとする。 叫んだ理由は事故とは関係ないのだが、説明するとまたややこしくなるので、 そういうことにしておこう。 「桐乃も明日から学校なんだから、今日はちゃんと休んどきなさいよ?」 「そう言えば俺って確か高3だったよな。 明日から学校とか行ったほうがいいのかな?」 お母さんがあたしに学校の話を振ると、京介は自分の状況を思い出したのか、 明日からの予定に首を傾げる。 「うむ、その事だがさっき母さんとも話し合ってな。 記憶が戻らないようなら無理に学校に行く必要はない。 今は学校も受験前で特別授業になっている上に、すぐに冬休みに入るから問題はなかろう。」 「そうだよ、無理したら逆に体に毒だよ?」 落ち着くまでは家にいるよう京介に促すお父さん。 正直なところ、あたしも記憶が無い京介が学校に行くのは望んでいなかったので、 その提案には全面的に賛成する。 「あ、そっか。もうそんな時期だもんな。 っていうか1月のセンター受験とかどうしようか?」 今が12月の終わりで受験間近ということに気付いて対応を聞いてくるが、 京介自身も実感がないのか、どこか他人事のような喋り方だ。 「記憶を無くした状態で受ける必要もないだろう。 今のおまえはとにかく自分の記憶を戻すことだけを考えればいいんだ。 勉強なんぞ、その後でゆっくりやっていけばいい。 子供に1年や2年ぐらいゆっくりさせてやる甲斐性は持ちあわせているさ。」 「父さん…。」 「あ、それじゃお父さん、あたしも…「桐乃は学校に行きなさい。」…はーい。」 お父さんの頼もしい言葉に、京介は尊敬の眼差しを向ける。 それならばあたしも一緒に家に居たいと願い出ようとしたところを、 即座にお母さんに却下されて渋々頷く。 「明日から京介が家にいるなら色々買いに行かなきゃね。」 「うむ。昨日は買い物に行く余裕もなかったからな。 荷物が多くなるようなら車でいくか。」 「それじゃあ桐乃と京介は家で待っていてね。 桐乃、母さん達が買い物に行ってる間に家の中を案内しといてちょうだい。」 「はーい。 それじゃ行こ?京介。」 お母さんから食料品や日用品などの買い物に出掛けている間に、 京介に家の中を説明しておくように頼まれる。 それに快諾すると、すぐ後ろに立っていた京介の手を握ってリビングを後にする。 「ここがお風呂で、あっちがトイレでね…。」 この家は狭くはないのだが、歩きまわるほど広過ぎもしない極一般的な住宅だ。 お風呂やトイレの場所を案内するのにそこまで時間はかからなかった。 お父さん達が車庫から車を出す頃には、ザッと一階の配置を案内し終えてしまう。 「ん。大体の場所は覚えたかな。」 「それじゃ、次は2階のあたし達の部屋だね。」 あたしを先頭に2人で階段を上がり、まずは階段のすぐ上にある京介の部屋の前で立ち止まる。 「ここが…俺の部屋か。」 その扉には【京介】と名前が書かれたプレートが吊るされている。 自分の部屋を前にして、京介は少し緊張した面持ちでゆっくりと部屋の扉を開ける。 5畳程の京介の部屋は、その主が1日居なかっただけで人気の無さが強まっているように見える。 目立つのは飾り気のないベッドと勉強机程度で、 机の上にも目覚まし時計やコンポが申し訳程度に置かれているだけだ。 椅子には数着の服が掛けられているが、 これらは金曜日にあたしが京介の服のコーディネートをあれやこれやと選んだ名残だ。 「なんていうか…思ってたよりずっと質素なのな。」 キョロキョロと部屋を見渡しながら、京介が呟く 「そだね。京介って趣味とかあんまり持ってなかったし。 少し音楽を聞くぐらいだったかな。」 「んー。でもCDの数とかもそんなに多くないしな。 ポスターとか雑誌もないし、俺って一体どんな高校生活送っていたんだよ。」 京介はコンポの横に置かれている何枚かのCDを手に取りながら、 記憶を失う前の自分が心配になったのかションボリと肩を落とす。 エロゲーにハマってたよ?と言おうかとも思ったが寸前で思い留まる。 ちなみに、京介に貸していたPCは定期チェックのために金曜の夜からあたしの部屋に戻っている。 べ、別に京介の履歴チェックとかじゃないからね? 「服は…ちらほらオシャレなのがあるんだな。 これってもしかして桐乃ちゃんが選んでくれたやつなのか?」 「あ、それはねぇ、前にあたしと一緒に渋谷で買ったやつだね。」 「やっぱそうだよな。 クローゼットにある他のとは全然雰囲気が違うもんな。」 「京介の服のセンスってすっごい地味だからねー。 ちょっと派手なぐらいが京介には似合ってるって。この前もさぁ、……。」 服の話から始まり、話題は段々とあたしと京介が普段どう接していたかという方向に移っていく。 「へー。お互いの部屋で遊ぶことも多かったんだな。 まあ、桐乃ちゃんとは仲が良かったみたいだし、部屋も隣同士ならそんなもんか?」 「あと京介は重度のシスコンだったからねー。 あたしじゃないとダメなんだ!みたいなぁ?」 「ははは、そこまでいくと俺も相当重症だな。」 仲の良さを強調する京介に、あたしは悪戯好きなシャム猫のように笑顔を浮かべて茶化すが、 本当のことと信じていないのか無邪気に笑って応える。 「それじゃあ桐乃ちゃんの部屋はどんな感じなんだ?」 「えぇ~。あたしの部屋見たいのぉ? 京介がどおしても見たいって言うんなら見せてあげるけどぉ?」 「へいへい。私めは重度のシスコンなので、 どうか可愛い可愛い桐乃様のお部屋を見せて頂いてもよろしいですか?」 「ん。素直でよろしい♪」 二人でそんなコントをしながら、ワイワイと京介の部屋を出てあたしの部屋へと向かう。 彼氏を初めて部屋に連れてきた時のように、 ふわふわと浮わつこうとする心を抑えながらドアノブに手を伸ばす。 『そういえば部屋にちゃんと戻るのって金曜日以来だな。 さっきは部屋に入っただけで電気もつけなかったし。』 そんなほんの些細なことがふと頭を過り…… ―――――――――っ!!! その時桐乃に電流走る。 そう、そうだ。あたしの部屋には土曜日の朝から誰も入っていない。 その前の金曜日には、シスカリの体験版が楽しみ過ぎてテンションが上がってたあたしは メルちゃんグッズを部屋に出したままにしていたのだ。 例えば、メルちゃん抱き枕はスヤスヤとベッドの中で眠っており、 机の上にはメルちゃんフィギュアが可愛らしいポーズをとっている。 だけどこれだけならまだなんとかなる。 強引だが、友達からもらったものだと言い張れば何とかごまかすこともできるはずだ。 問題は、積みゲーをこなす為に机の上に置きっぱなしになっているエロゲーだ。 その名も 『鬼畜兄妹~でも大好きだから~』 内容にはストーリー性やオチなんてものは一切無く、ただただお兄ちゃんと妹がヤりまくるゲームだ。 そんなゲームなので、中身はもちろんパッケージも他人様には決して見せられるようなものじゃない。 そして、京介は記憶を無くし、あたしがオタクだということも忘れてしまっている。 つまり、今の京介はオタクの知識も免疫も全く無い、俗にいう一般人なのだ。 もし京介があたしの部屋で〝そんなもの〟を見てしまったら……、 『な、なんだこれはっ!?』 『京介、実はあたしね、エロゲーとかアニメが大好きなの。 ううん、愛してると言ってもいいっ!』 『………ない。」 『え?』 『俺の妹がこんなにオタクな訳がないっ!!(ダダッ)』 『京介っ!?京介ーーー!!』 第3部 完 サアッとあたしの頭から血が一気に引いていく。 京介は記憶が無くなる前には、 あたしがどんな趣味を持っていても笑ったりしないと言ってくれていた。 だが、今の京介はどうだ? もしかしたら前と同じように、あっさりと趣味を受け入れてくれるかもしれない…。 『……駄目駄目駄目っ!!』 都合のいいほうへ傾きかける頭を無理矢理矯正する。 そんな博打を打つのは、余りにもリスクが高過ぎる。 それで京介から幻滅されようものなら本当に目も当てられない。 「ん?どうしたんだ桐乃ちゃん?」 ドアノブを掴んだまま固まってしまったあたしを不思議に思ったのか、 京介があたしの顔を覗き込んでくる。 その言葉で妄想の世界からハッと立ち直ると、 慌てて振り返って京介の胸を押し、一歩でも部屋から遠くに遠ざける。 「や、やっぱりダメッ!!」 「ど、どうしたんだ、急に?」 「どうしてもっ!今部屋は見せられないの!」 「……はっはーん。 さては部屋を全然掃除してなかったんだろ? 別に俺は桐乃ちゃんの部屋がちょっとくらい汚なくても構わないぞ?」 『そんな可愛らしい理由じゃないっつーーの!』 態度が急変したあたしに最初は驚いていたが、何かを納得する素振りを見せると、 したり顔で汚くても大丈夫だとニヤけてくる京介を、心の中でバカやろーと叫び声をあげて罵る。 「あー!もういいから!京介はちょっと自分の部屋に戻ってて!! あたしがいいって言うまでは絶対に出てこないでっ!」 「あはは、わかったわかった。 それじゃ邪魔者は退散しとくよ。」 「いい!絶対入ってきたら駄目だかんね!?」 あたしの慌てる姿が余程おかしかったのか、笑いこける京介の背中を押して、 無理矢理部屋に押し込む。 扉の向こうの京介に再度言付けると、バタバタと慌てて自分の部屋に向かう。 すぐに自分の部屋に戻ったあたしは問題のモノに目を走らせる。 今のところ、目につくのは抱き枕とフィギアとエロゲーの3つ。 それらを確認すると、ババッと本棚の荷物をベッドの上にぶちまけて その後ろに隠された襖を開く。 オタクグッズで一杯になっている押入れにエロゲーとフィギアを強引に突っ込んでいく。 『あーもうっ!なんでこんなに邪魔なのが一杯あるのよ!』 押入れの中はエロゲーやフィギアなどで溢れかえっており、 思った以上に嵩張る等身大メルちゃん抱き枕はなかなか入りきってくれない。 なんとか無理矢理に押し込むと奥のほうで何かが崩れ落ちる音がしたが、 今はそんなことを気にしてはいられない。 『今の京介には〝こんなもの〟見せられないよね…。』 押し入れの中はオタクグッズと大きく形が歪められた抱き枕でぎゅうぎゅうになっている。 原型を留めていないメルちゃん抱き枕の目が、どこか怨めしそうにあたしへ向けられている錯覚に陥る。 『う…目を合わせられない…。 浮気した男の人ってこういう気分なのかな…? ごめんね、みんなっ!京介の記憶が戻るまでの辛抱だから。』 そんなつまらないことを考えながら、隠し扉に手をかける。 心の中で謝罪の言葉を並べつつ、何かから逃げるようにピシャッと勢いよく扉を閉める。 『これでよしっと。後はこの荷物を戻せば大丈夫!』 ベッドの上にぶちまけた物を急いで本棚に戻していく。 このときには、既に意識は京介を部屋に呼ぶことで一杯になっていた。 こうしてあたしのオタクの扉は封印されたのだった。 京介side 時間は桐乃が本棚を元に戻しているときから少し遡る。 「仲がいい兄妹に汚い部屋を見られたくないなんて可愛らしいなぁ。」 桐乃ちゃんに自分の部屋へと無理矢理追いやられた俺はどこか場違いな感想に浸っていた。 「さて…それじゃあこっちも急がないとな。」 先程、というよりもこの家に入ってからずっと懸念したことを思い出し、 気合いを入れて指をポキポキと鳴らす。 それは、自分の部屋に隠された〝いかがわしいブツ〟をどうするかということだ。 俺も高校生だし、所謂そういうことに興味津々な年頃だ。 長い高校生活の中で18禁の本やら何やらをコレクションしているのはほぼ確定的だろう。 もし、記憶を戻すために俺の部屋で思い出の品を探そう、なんて流れになってしまうと、 家族に俺のコレクションと性癖を御開帳する危険性が出てきてしまう。 そんな恥ずかしくて死にたくなるようなイベントを回避するためには、 俺が家族の誰よりも早くそれを発見し排除するしかないのだ。 記憶は失なっているが、所詮以前の俺と今の俺は同一人物に過ぎない。 思考や性格が大きく変わることはないだろう。 つまり、俺が〝獲物〟を隠す場所を一番よくわかっているのは俺なのだ。 その考えに行き着くと、狩人のように鋭い目でザッと部屋の中を見渡して、 危険な香りがする場所に何点か当たりをつけていく。 「まずはベッドの下…。 隠し場所としては定番中の定番だな。」 どこぞの傭兵のようにササっと床に伏せるとすぐに、 ベッド下の隅に小さめの段ボールが置かれているのを発見する。 それを慎重に光の下へ引き摺り出して中身を確認する。 箱の中には薄い写真集が何冊か敷き詰められているが、マニアックな類いは一切無く、どれもノーマルなもので一先ず安堵する。 「眼鏡をつけた美女の写真が多いな…。 我ながらいいチョイスだぜ。』 記憶を無くす前の俺のセンスに称賛しながら、 その本をクローゼットの隅で埃をかぶっていた中学の教科書の束の中へ紛れ込ませる。 非常に勿体無いが、この本はこの後にでも処分しておく必要があるな。 「ここは……鍵が無いか。」 机の引出しで唯一鍵がついている一番上の棚に目を付ける。 しかし、周りに鍵は見当たらず、少し隠されていそうなところを探しても見つからない。 鍵が無ければ仕方がないか、と鍵の探索を断念する。 念のため、他の引出しの中を一つ一つチェックしていが、 引出しの中は文房具や高校のプリントなどが入っているだけで、大きな異常は見られない。 「他は問題無さそうだな…………ん?」 一番下の引出しも問題が無いことを確認して閉じようとすると、その奥にふと違和感を感じた。 うまく偽装はされているが、引出しの奥の壁がほんの少しだけ厚いのだ。 よく観察すると、薄い板がピッタリと付けられているが、ごく僅かな隙間が見える。 「ふふふ…甘い甘いぞ、以前の俺! このような小細工が俺様に通じるわけがないだろう!?」 そんなバカなことを呟きながら、その板に指を引っかけて少し強めに力を込める。 すろとカタッという音と共に、板が少しだけ前にずれる。 その隙間に手を伸ばすと指先に紙の感触が伝わり、それを慎重に手繰り寄せていく。 「なっ!?」 『なんじゃこりゃっーー!!!?』 口から思わず叫び声が上がりそうになるのを、理性で必死に押さえ込む。 出てきた〝ブツ〟はエロ本だが、ただのエロ本ではない。 あまりに衝撃的な品のため、無意識に両手を突き出して題名を再度確認する。 『妹シリーズNo. 117 お兄ちゃんの妹観察日記』 題名も題名だが、表紙を飾っている女性が どことなく桐乃ちゃんに似ているのが更に危険度を高めている。 『……ぅおいおいおいおいっっ! シスコンてレベルじゃねーぞ!! こんなもん爆弾どころか、核爆弾級じゃねーか!?』 中身をチラ見すると、桐乃ちゃんそっくりな女の子が兄貴役の男から 猥らな姿を視姦されるという非常にマニアックなシチュエーションがテーマのようだ。 妹のいる兄貴がこんなエロ本を隠していたことを家族にバレでもしたら…… 『京介!あんたって子はっ!!』 『キモ過ぎ。近寄んないで…。』 『 死 ね 。』 「――俺、記憶と一緒に家族も失っちまうぞ……。 これはさすがにシャレになんねえよ。さっさと処分しないと…。」 あまりにも危険な〝ブツ〟のため、エロ本を持つ手が無意識に震えてしまう。 家族には、特に桐乃ちゃんだけにはこんなものを見せるわけにはいかない。 見られた時点で俺の人生やら何やらが終了してしまう。 「どうする、どうする!…「京介ー。お待た…せ………?」…。」 「「――――――――っ!?」」 お互いの時間が一瞬にして凍りつく。 あまりに動揺し過ぎた俺は桐乃ちゃんが部屋に近づいてくるのに気付かず、 その桐乃ちゃんも扉を開けた状態で固まってしまった。 桐乃ちゃんの視線の先は俺、正確には俺の手にある雑誌に定まっている。 その表紙には丸っこい文字で『妹観察日記』と書かれており、 桐乃ちゃん(に似ている女)の裸の写真がデカデカと載っている。 「…………………。」 パタン… トントントン バタンッ 無言で部屋の扉が閉められて、桐乃ちゃんが階段を降りる音が響く。 最後にリビングの扉が閉められる音で麻痺していた俺の意識も覚醒する。 お、落ち着け。落ち着くんだ高坂京介! クールになれ!状況を整理しろ!! まず妹が兄貴の部屋の扉を開けた。 すると自分の兄貴が妹系のエロ本を手に突っ立っていた…。 えっと…なんだ、その……… 「正直すまんかったーーーーっ!!!!」 事態を把握した俺は超高速で階段を飛び降り、 リビングに飛び込むと勢いそのままに頭を床に擦り付けながら土下座を決める。 ジャンピング土下座の世界大会があれば優勝間違いなしの完璧な土下座だった。 「…………。」 「いや、あれはっ…その、違うんだっ! ただ部屋を探してたら出てきたから俺のじゃなくてっ、けど俺の部屋だから俺のもので、 それでも決して桐乃ちゃんを意識して入手したようなものじゃないんだ!?」 相当ショックだったのかソファに俯いたまま体育座りをしている桐乃ちゃん。 それに対して、土下座をしながらあたふたと器用に身ぶり手振りを加えて 言い訳にもなっていない言い訳を半泣きになりながらも繰り返す俺。 その後5分程言い訳を続けていると、桐乃ちゃんは、うーーと呻き声を上げながら、 耳まで真赤になった顔を上げて怨めしそうな眼で俺を睨んでくる。 「ほんとごめんっ!! あんなもん見せちまった俺が言うのもなんだけど、 どんなことでも言うこと聞くから機嫌を治してくれないか?なっ!?」 「………なんでも?」 俺の何でもやる発言に反応して、桐乃ちゃんがようやく口を開いてくれる。 手を合わせて謝る俺はそれを好機と見て、なんとか機嫌を直してもらおうと、 桐乃ちゃんを真正面から見つめて語気を強める。 「あ、ああ!俺のできる範囲ならなんでもやる! 永久奴隷でもサンドバックでも何でも言ってくれ!!」 「それじゃあ…付き合ってよ……。」 「―――え…?」 全くの予想外の答えに面食らった俺は思わず聞き返してしまう。 そんな俺に桐乃ちゃんは何も答えず、少し潤んだ瞳で見つめ続けるのだった。 【破】 6章 完
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/454.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1299681223/967-978 八月十七日 携帯電話が鳴った。 着信画面には、あの女の名前。 (この時間帯なら……そうね、またぞろ先輩が身体を張って解決して、 落ち着いた頃合かしら) なんて、本当に思っていたわけではないけれど。 自分の中で最大限に美化した彼ならば……いや、これまでの実績を 鑑みてのことだから、別に過大評価ではないはず……先輩ならば、 うまくやってくれたんじゃないか、そう思えるタイミングだった。 「……もしもし」 勤めて平坦に声を出す。 『……あの。あー、』 ここら辺の台詞の切り出し方のヘタレ具合は、まさに兄妹瓜二つだ。 「今日のこと、ゴメン」 「何のことを言っているのかしら」 勿論この程度で赦せるわけも無い。 なぜなら。 私は、許してもらうために……赦すのだから。 『その。あれから、私の、彼氏……じゃなくて、彼氏役の人がね、』 「ああ、案の定あれは嘘だったと。それで?」 『うぐっ……で、まあ、あいつが……兄貴が、あの、なんていうか……』 「…………」 予想はしている。大方、俺は妹が好きだー!付き合うなんて許さん! とか言って切り抜けたのだろう。 癪に障る女。毎度のことながら。 「どうしたのかしら? まさかお兄さんが愛の告白をしてくれて偽彼氏から 貴女を奪ってくれたのかしら?」 『、ちょ、ま、まさかあいつから……っ! なわけないか。アンタ時々 無駄に鋭いわね。フン……ま、簡単に言えば大体そんな感じで、 あたしのことを超好きな兄貴が変態丸出しで『桐乃が彼氏を作るなんて嫌だ!』って。 いやー、ホント、可愛いって罪よね』「マジでぶん殴るわよ」 『ご、ごめんなさい……反省してます……』 チッ。と、心の中でだけ舌打ちするのに精神力を要した。出来ればもっと 罵ってへこませてやりたい。けれど、今はそんな場合じゃない。 「で? 何を謝るって?」 『えっと……折角皆で楽しむために集まったのに、ぶち壊しにしちゃって、ごめん』 「そんなことはもういいわよ。誰も怒っては居ないのだし。他には?」 『……あたし、やっぱり兄貴のことが好き。あんたが兄貴のことを好きなのにも負けないくらい。 だから、もう兄貴を嫌な気持ちにさせるようなやり方で気をひくことは、しない。ごめんね。』 「普段ツンデレぶっている分、カミングアウトした時の変態ぶりは兄以上ね貴女は。まさか 現代日本でそんな台詞をリアルに聞かされるとは思わなかったわ」 『なあっ!? 何言ってんのよ! 私は別にそんなんじゃ』 「本当に? 貴女まさか、まだ自分が兄と結婚できると思ってるんじゃないでしょうね?」 『なっ……ないないないない! アンタ人を変態に仕立て上げようとすんのマジ止めなさいよね!』 「そう。じゃあ今回のことを踏まえて聞くけれど、貴女は先輩に彼女が出来たらどうするつもり? 先刻言ったような台詞で別れさせるの?」 『ぐっ、いや、その……それは……ご、ごめん。あたしが相手のことをよく知らなかったら、 そうしちゃうかも』 「へえ? 相手の女を知っていれば、交際を許すと?」 『そういう、わけじゃ……いや、うん。許……すよ』 釣れた! 「そう。なら明日私、先輩の彼女になりたいって告白するから。貴女の癇癪に触れないようで、 助かったわ。ありがとうね」 『……は? それとこれとは話が別だし』 「別じゃないでしょう。貴女は私のことを知らないっていうの?」 『えーと、ほら、あんたが家でどうしてるかとか、家族のこととか、そもそも家の場所さえしらないし、』 「貴女はなんなの? 姑なの? どれだけ深く知ってれば気が済むのよ」 『だ、だって! こういうのって、その、両家の関係が』 「何も婚姻届を出したいだなんて言ってないわよ」 『はぁ!? あんたそんないい加減な気持ちで兄貴と付き合うわけ? なめてんの?』 「ちょっと待ちなさい、そろそろブラコンとか気持ち悪いというレベルを通り越してきたわよ。 まあそれはあえて流すけど、……ええ、いい加減な気持ちじゃないわ。 将来的には貴女に『お義姉さん』と呼ばれるような関係になりたいと思っているわ」 『誰が呼ぶかっ!!』 「でしょうね。嗚呼、幻視できるようだわ、将来先輩の子供に自分を『ママ』と呼ばせようとしてみたり、 出もしない乳を吸わせて悦に入るようなガチ変態妹が」 『い、いくらあたしでもそんなことしないし! 人を変態扱いすんな!』 「そうね。本当になってしまったらかなり気持ち悪いからこの想像はやめておくわ。 とにかく……私は、明日、人生をかけた告白をする。貴女の発言でそれをご破算にして欲しくは無いの」 『わかっ……いや、だからあたしはそんなことしないし!』 ……このあたりで言質とするべきかしら。 「本当ね?」 『ん……』 「念のために言っておくけど、昨日の今日だし、貴女が許可しなければ先輩は多分 誰かと付き合ったりはしないわ。それが分かった上で言っているのね?」 『…………。分かったわよ。ただし! 言っとくけど、あんたが素で振られたら思い切りプギャーするからね』 「言ってなさい。私は、全身全霊、全知全能をもって先輩を振り向かせてみせる。 妹の魔の手から掻っ攫うわ」 『ふん。随分自信ありげじゃない』 「数ヶ月前から告白の前フリは仕込んでるけど。自信なんて無いわ」 『はあ? 死亡フラグ乙』 「とにかく、細工は流々、後は仕上げをごろうじろ……よ」 ……やった。ラスボスの前に隠しダンジョンのボスを倒すような飛び道具ではあるが、 とにかく、後は自分自身の気合だけだ。 「と……今のうちに先輩に呼び出しのメールを打たないと」 手が動かない。 「…………っふ……この暗黒の女王ともあろうものが告白のメールひとつ 打てないなんてお笑いだわ。あの兄妹のせいかしらね……甘さが移ってしまった…… でも先輩……私とまともに喋ってくれた男の人はあなたが初めてだった。 あなたと居た数ヶ月……悪くなかったわ」 ジャンプネタでごまかしている間にも時代はどんどん流れていく…… なんて言ってる場合じゃないわ。もう文面を詳しく書き込むのは私のMP的に無理ね。 そう……そう。私の『呪い』が今だ先輩の心に根を下ろしているのなら。 それだけが私の、一縷の望み。 「『”約束の地”であなたを待っているわ』……と。これで来ないようなら、脈無し、ね」 送信ボタンにかかった指が、どうしても動いてくれない。 いいの? これで? 本当に? だって、また何か起こって告白の空気が軽く流されてしまうかも。 だって、今まで必死になって積み上げてきた、先輩への『呪い』が、消えてしまうかも。 それは、私と先輩とを直に結んでくれる、特別な関係。 それは、先輩が私を「ちょっと気になる女の子」としてみてくれる、奇跡の魔法。 それは、失われれば二度とは戻らない、儚い泡沫の夢。 胃のあたりがキリキリと痛む。身体中が震え、心の臓の脈動が聞こえる。 「…………」 私は微動だにせず、携帯電話の液晶を睨みつけたまま。 10分。 20分。 30分。 40分。 50h「……ふう。いい加減我ながら気持ち悪いわね。もうやめ。寝ましょう 明日、時が来たら……送信する」 まさか、告白をするのに目に隈をつくって行くわけにはいかない。 あ。そういえば、明日何着て行こう。 (……あの白いワンピースで行く) あの世界で一番癪に障る女。あの女の選んだ服で。 「私の呪いを、完成させる」 そのために。今は、眠ろう。 八月十八日 「私と、付き合ってください」 黒猫の言葉は、正しく呪いだった。 俺はこれまでの人生、いろんな辛い言葉、嬉しい言葉を受けてきた覚えがある。 その一つ一つは俺の心に突き刺さって……たまに思い出すと、イラッとしたり 優しい気持ちになったりするもんだ。だが…… 黒猫のその言葉は。今まで受けたどんな言葉よりも強く、深く突き刺さって。 俺は、呆けたように黒猫に魅入られたまま……一言も喋ることが出来なかった。 そのとき、俺は本当に呪いにかけられてしまったのだろう。 だって、最近じゃ自他共に認めるこのエロゲ脳の俺がだぜ? 黒猫の告白に、断るって選択肢を思いつけなかったんだよ。 1.今すぐどこぞの宇宙人ばりに黒猫の手をとって「結婚してください」と言う。 2.ショックを受けたまま今日一日くらいかけて、気持ちを整理して、かっこよく黒猫の気持ちに応える。 この二択だ。1はさすがの黒猫でもドン引きするだろう。つーかジャンプネタだし。 答え② 答え② 答え②、だ。 まあ、簡単に言うと。 潤んだ瞳で俺を見上げて、必死の思いで俺に告白する黒猫は。 エロゲも、エロ本も……ああ、認めてしまおう。俺の妹をすらはるかに越えて、 可愛かった。まぶしかった。痺れた。 そうやって、アホみたいに固まったままの俺を尻目に、魔法が解けてしまったかのように 黒猫の瞳が、つい、と動く。 「あ…………。返事、は、いつでも、いい、から。……いつまでも、待ってるから」 声が震えている。 多分、俺も声を出したらとんでもなくひっくり返った声になるだろう。 だからってわけじゃないが、顔を真っ赤にして俺の脇を駆けて行く黒猫に、 声をかけることすら出来なかった。なんと脚すら動かないんだぜ? ようやく振り向いた時には、黒猫はもう10メートルは離れていて…… 失敗したなあ、と思ったよ。何がって? そりゃ…… 黒猫の横顔、横目じゃなくてばっちり見ておけば良かった、ってな。 さて、その後俺がどうしたかといえば、ごく普通に図書館に行った。 こんな状態で桐乃の前に出たら、一体どうなるか分かったもんじゃないからな。 八月十九日 あの男は、実は私を殺したいのではないかしら? そんなことを思うほどに、長かった。永かった。一日千秋と言う言葉の意味を、魂で知った。 「あ、あ、あ……魂が、疼く……私の中の『闇』が……あふれ出してしまう…… 駄目よ、『闇猫』に堕ちてしまったら……先輩と一緒にいられない……!」 とぅるるるるるるるる とぅるるるるるるるる とぅるるるるるるるる 「先輩……じゃない。あの女か。……もしもし」 『もしもしー? あんたあの後どーしたのよ? まさか怖気づいちゃったわけー?』 「うるさいわね。……たわよ」 『は? なんて?』 「告白、したわよ。今は返事待ち」 『…………。そっ、……そう。へえー。まあその根性だけは? 認めてあげてもいいですけどー』 「……なにか、先輩から言われてない?」 『いや、今朝から顔あわせてないけど。あいつ寝てたし』 鎮まれ……我が魂よ……! 『いや、まあ、さすがのあいつも、ねえ? 今日明日中には返事する……と思うよ?』 なにこれは。今私はあのビッチから哀れまれているの? 「随分余裕なのね。いとしのお兄様に恋人が出来るかどうかだというのに」 『はんっ。べっつにー。……恋人が出来ようが嫁が出来ようが、兄貴だしね』 「浮気や不倫をしても近親相姦の射程圏内だと言うの? 恐ろしい女ね」 『ちがっ、な、何いってんのあんたは! そういうんじゃないっつーの!』 「まあ何でもいいわ。返事の期限を切らなかったのは私の落ち度でもあるし。待つわよ、何時までも」 『なんつーか、あんたって……重い女?』 「恋人ができる前から姑気取りのヘビー級妹に言われたくは無いわ」 『うっさい。じゃま、あたしもこれから仕事だから』 「奇遇ね。私もバイトが入っているの」 『はいはい嘘乙。じゃね』 プッ、ツー、ツー、ツー。 八月二十日 やっば。やっばい。やっちまったぞ俺。 何で昨日行かなかったんだマジで。我ながらありえん。 ただ黒猫の所に行って、「俺も好きだ! 付き合ってくれ」と言うだけの 簡単なお仕事だってのに。 メチャメチャ緊張する。もっと気の聞いた言葉が言えないのかって思う。 かっこよくとか要らん表現の付いた選択肢なんか選ぶんじゃなかったぜ。 あの場でぐわーっと言っちまうべきだったか。 今日言うぞ。これ以上は本当、黒猫に断ったとみなされるかもしれん。 告白受けてOKするだけの俺がこんななのに、黒猫はどれだけの勇気を振り絞ったか もう想像もつかねえよ。 今日。いや、今だ。 なんと都合のいい事に、今日は日が沈むまで俺以外の家族は留守。 乗るしかない、このビッグウェーブに。 茶化すなって? すまねえな。こうでもしないと、もう内心ですら間が持たないぜ。 「フゥー……」 そろそろ昼も過ぎた。黒猫……電話に出てくれるかな? メール……はまだるっこしいな。電話にしよう。 アドレス帳から選び、通話ボタンを押す。 「……あ、黒猫?」 「…………なにかしら」 やべ。ちょっと声の温度が低い気がする。 「直接会って、話をしよう。……俺んち、今日は誰も居ないから」 「んくっ……、はい」 「おう。じゃ、待ってる」 通話を切った。後は……と。黒猫に出す麦茶くらい用意しておくべきだな。 (……ん?) いや、待てよ。よく考えたらこれって……やばくね? 告白してきた女の子に返事いうのに、呼びつけるとか。 しかも自宅て。誰も居ない自宅て。 とんだ外道も居たもんだぜ。 …………実は昨日、コンドーム買っちゃったんだけど。 うわ俺最低だな! 即喰うことしか考えてない外道だよ! 「やっべ。やっべ。やっべ」 やばすぎる。桐乃でなくても怒っていいところだ。 「いや、落ち着け俺。別にそうなることが確定ってわけでもねーし。 そう……黒猫に好きだって伝えて、後はリビングなり俺の部屋なりで イチャイチャキャッキャウフフするんだ。今日はほんと、それだけ」 誰に対するなんなのかもよく分からんつぶやきをしてしまうほどに、 俺はテンパっていた。 そして……程なく黒猫がやってくる。 「お……お邪魔します」 先日と同じ、白のワンピース。 うつむきながら、消え入りそうな声でつぶやくその姿は、初めてこの家に来たときの 比じゃないほどに緊張しきっていた。 だがそれも後数分で終わりだ。 「お、おう。上がれよ。麦茶だすから」 顔を上げかけて、またうつむいてしまう。 分かってる、分かってるから……やっべえ、また緊張してきた。 黒猫はソファに音もなく座る。 俺は麦茶のコップを黒猫の前に、なるべく丁寧に置いて、その向かいに座る。 「あー、うん、黒猫……」 声を出した瞬間に、黒猫の肩がすくんだ。 その緊張が伝播したのか、俺の緊張もいや増していく。 くそ、頭の中が真っ白になっちまって、単純な言葉しかでてこねえ。 単純で、一番大事な言葉だけ。 「俺もお前のことが好きだ。黒猫、付き合おう」 息を呑む音は、果たしてどっちのものだったか。 多分黒猫のものだったろうな。 何せ、告白を受けて顔を上げた黒猫の余りの可愛さに、俺は遅れて息を呑んだわけだから。 「っ……はい、……はい!」 美少女が、感動の余り両手を口元に当てるなんて仕草、漫画やアニメの中でしか お目にかかれないと思ってた。……俺の胸も、震えたよ。 もう、俺たちは恋人同士なんだ。 そう思うと、テーブル越しに向かい合った距離だって我慢できない。 もっと近くへ。俺の可愛い恋人と、触れ合いたい。 そう思って、自然と立ち上がって、まだ座ったままの黒猫を抱きしめる。 すぐに口に当てていた手を離し……俺の背中へ。 「莫迦……! 待たせすぎよ! 待ちすぎて死ぬかと思ったじゃない……」 「ああ、ごめんな。もうちょっと気の聞いた言葉を言えないもんかってさ、 ちょっと考えてたら、うっかり昨日一日潰しちまった」 「本当、救えない大莫迦よ、あなたは。でも。好きよ。大好き。愛している」 「ああ、俺もだ。好きだ、黒猫」 抱擁を緩めて、お互いに顔が見える体勢になる。 「キスして……いいか?」 「……もちろん」 言い終わるが早いか、俺は黒猫に唇を重ねた。 柔らかい。あたたかい。気持ちいい。全部が混ざったこの感覚、 他の何かじゃ絶対に得られないだろうな、と思いながら、唇を吸う。 ちゅっ……ちゅるっ…… 唇を吸って、一瞬離してまた吸う。 「んむっ……は、ふ……ぅん……」 うっとりとキスの感覚に浸りながら、息を求めてあえぐ黒猫が可愛すぎて…… 唇に舌を這わせてみた。 「ふぅぅっ!」 ビックリして目を見開く黒猫。当然目の前には俺がいる。 驚きと、恥ずかしさと、少しの期待。黒猫の潤んだ目が、普段とは違う意味で 半分くらいまぶたを閉じて俺を見つめている。 これは……なんていうか…… 超そそる! うっかりすると、次の瞬間黒猫をソファに押し倒してしまいそうだ。 さすがにそんな、ヤるためだけに呼んだような格好になるのは嫌だ。 今日は……いや、一ヶ月くらいはそういうの自重すべきなのか? 付き合ったこととか全然ないからまるでわかんねー…… ちゅ…… とそんなことを考えているうちに、黒猫が唇を離してしまった。 名残惜しく思っていると、 「先輩……その、……し、したいの?」 どうしてこいつはこういうときだけエスパーになるんだろう? だがいつもの余裕ありげな余裕ありげな感じは鳴りを潜め、その所作は 気弱げな少女のそれだ。なんというか……いじめてオーラが漂ってる。 やめろ黒猫……! それ以上やったら俺はもう自分で自分を抑えられんぞ…… 「いいのよ……私はもう、あなたの女なのだから。あなたのどんな変態的な欲望も 受け入れてあげる」 もう生唾を飲むことしか出来ない。 「ま、まままマジで!?」 「ただし。あなたにも誓いを立ててもらうわ」 「ち、誓い?」 「そう……。答えて。『私を……お、およ、』……」 こういうの、客観的に見れば軽率だって思うかも知れねえ。 でもよ。あえて言うね。 これを断れるような奴は男じゃないって。 「結婚しよう。将来、そうだな……俺が就職して、曲がりなりにも一人前になれたら、さ」 言っちゃったよ、おい。始めての告白と同時にプロポーズとか、 俺もコイツも大概だな? 「い、いい……の? 私のこと……お、重い女……とか思わない?」 「いや思うよ? 告白即プロポーズとかマジありえねーわ」 「私は、まだ何も言って……」 「でもお嫁さんにしてーとか言うつもりだったろ? 俺は……いいと思うぜ、そういうの。だってさ、 ここまでやって、将来はやっぱ別の奴と結婚します、とか 考えたくもねーよ。こうなった以上、俺はお前といけるとこまで いきたいって思う。だから、重くて当たり前だし……重いものを 俺に預けてくれるお前の気持ちが嬉しい」 「っう……うぇ……」 黒猫の瞳からついに涙が溢れ出した。 俺もなんというか、これ以上なんていって良いのかもう分からなくって…… 黒猫を抱きしめることしかできなかった。 「……俺の部屋、行こうぜ」 俺の腕の中でうなずいた感触を感じてから、俺は黒猫の肩を抱いて 階段を上がっていった。 恥ずかしいしそもそも階段上がるのちょっと窮屈なんだが…… 今の黒猫は、俺が離れた瞬間に消えてしまうんじゃないかと思うくらい、 幻想的なまでに美しかった。 え? 部屋に通してどうするかって? 言わせんなよバッカ恥ずかしい。 「ふぅ……やっぱり落ち着くわねこの部屋は。くゎ……」 なんとなく黒猫が落ち着くのを待っていたら、いつものように俺のベッドに うつぶせになって寝転がって漫画読んでくつろいでる所だよ。 「ええー……ちょっとテンション変わりすぎじゃないですかね黒猫さん」 「ふふ……もっとしおらしくなって自分から服でも脱ぎ始めたほうが良かったかしら?」 落差がひでえな!? 「いやそれもちょっと難易度高すぎると言うか……い、いいのかよ、その、俺たち 今さっき、こ……恋人になったばっかりなのに」 黒猫は読んでいた漫画を閉じて、脇においてしまう。 さらに顔を枕にうずめてしまった。 「お、おいおい、ど、どうしたんだよ」 そして、無言のまま……脚を、ほんの少し開く。 開くと言っても肩幅程度だ。 今日の黒猫はミニスカート程度の丈しかない、薄手の白のワンピース。 ゴスロリドレスや制服とは比べ物にならないほど、身体のラインが浮き出る服装だ。 ゲーム作りのために黒猫と二人きりでこの部屋にこもった時期のことを思い出す。 あの時は、黒猫のまぶしい太ももの裏から視線をはがすのに必死だった。ほのかに香る 甘い香りにドキドキしていた。 そんな黒猫は今や、俺の恋人なのだ。しかも結婚の約束までした。なんかもういろいろ体を 許された。 まぶしい太もも。 うっすらと肉の付いたおしり。 無防備にさらけ出された腋。 ギュッと枕に押し付けられた頭、ちらりと覗くうなじ。 ……あれ? つまりこれって…… 「この身体に触り放題、だと……?」 黒猫が枕から顔を上げようとはしないのをいい事に、そっとベッドに腰掛ける。 それも黒猫の足の方のはじっこに。 俺は、何度妄想したか知れない禁断の聖域……すなわち、黒猫の太ももに、 意を決して……触れた。 「んっ」 黒猫は枕から顔を上げようとはしない。微かに震えが伝わる。 片手の指先だけ触れた状態から、手のひら全体を密着させる。 さらに、両手で両太ももに触れた。 触れる場所が増えるたび、黒猫は微かな吐息と震えで応えてくれる。 どーすんだよこれ。つーか俺はここから何をしようとしてるんだ!? あまりにも印象に残ってたもんだからとにかく太ももに触ることしか考えてなかった。 とりあえず、親指だけを使って、太ももの内側をつう、と撫でてみる。 「はっ、んんっ」 これまでで一番の大きな反応を見せた。 き、きき気持ちよくなっちゃってるのかな黒猫さん!? 俺のテンションも相当おかしくなってきた。 心臓はバクバク鳴り通しで、手が震えていないのが不思議なくらいだ。 今度は、手のひらをどんどん上に……脚の付け根に持っていく。 ぎゅ、と枕を掴む力が強くなった音を感じるほどに俺の神経は研ぎ澄まされていた。 あっという間に指の先がワンピースの裾に届き、その下にもぐりこむ。 今俺は、好きな娘のお尻に、本人の消極的同意のもとで触っている。 一度触れてしまうと、逆にもう離そうなんて思えない。 太ももとはまた違った、柔らかな肉の感触。緊張しているのかしっとりと汗ばんだ この尻の感触は、中毒になるんじゃないかというくらい極上で、 さっきまでの緊張は何処へやら、俺は黒猫の尻に指を這わせ、柔らかさを堪能するために ぐっと力を入れて、ワンピースどころかパンツの尻の部分の下に指をもぐりこませた。 もう見なくても分かる。力の限り枕を抱きしめ、うなじまで真っ赤にした黒猫が、 それでも俺にされるがままになっている。 俺は調子に乗ってさらに大胆な行動に出た。 「ひうっ!」 黒猫もさすがに驚いただろう、枕越しにも大きな声を出して、背中までのけぞらせて 反応した。 俺が、黒猫の尻に顔をうずめたからだ。 告白の直後に自室に後輩である彼女を連れ込んで、尻をもんだりクンカクンカしている。 桐乃あたりに知られたら、マジで絶縁状叩きつけられてもしょうがないと思う。 でもやる。 この匂いは何度も嗅いできた、黒猫の匂いだ。そして初めて嗅ぐ、黒猫のパンツの匂いだ。 尻にキスをする、とか、なんかSMとかで屈辱的な感じで使われるけれども。 ああ、黒猫の尻なら俺は喜んでキスしてみせるね。 と言うわけでキスした。むしろ舐め上げた。 「~~~~~!」 もはや声にならない高周波をだして、びくんびくん震える黒猫。 キスマークを付けるつもりで最後にぢぅーっと吸って、俺はようやく顔を上げた。 正直、満ち足りていた。もう、なんか、満足だ。こういうエロいことは、 とりあえず今日はいいかな……と思って、めくれ上がった裾を直してやってから 黒猫の全身に覆いかぶさるように四つんばいになる。 予想通り黒猫は枕を潰さんばかりに抱きしめて、うなじまで真っ赤にしていた。 ふむ……尻の次はやっぱ、む……胸だよな。 確かに黒猫はそれほどあるほうではない。だが、無くは無い。 『少女らしい』と言う形容が似合う、可愛いふくらみだ。まあ 黒猫もうつぶせだから、胸は今見えないんだが。 くびれた腰の辺りから腕を下に回して、黒猫を抱きしめる。頭の位置が同じくらいに なるようにしているから、ちょうど太ももの所に俺の股間が当たる格好だった。 首筋に顔をうずめ、匂いを嗅ぐ。キスをする。俺に何をされるのかと、緊張で がちがちだった黒猫の身体から、少しだけ力が抜けた。その隙にってわけじゃないが、 するりと腕を上げて、黒猫の胸を下からすくい上げるように触れる。 こうして腕の中に黒猫がいると実感できる。ああ、俺たちは本当に恋人になったんだな。 そう思うと、急に黒猫が顔を見せていないのが寂しくなった。 「な、黒猫。……キス、しようぜ」 「ん……」 腕の力は抜けないままだが、顔を枕から離してくれた。うつぶせのまま振り向いた横顔は、 さっきからのショッキングなお触りでそうなったのだろう、上気した頬と、目に溜まった涙が 特に印象的だった。 っていうか、そうか。この体勢のままキスするんだな。なんか、「最中」にキスしてるみたいで エロいな…… 「綺麗だ、黒猫……」 簡潔に感想をつぶやいて、唇を重ねる。今度は最初から舌を差し出してみた。 恥ずかしげにそっと閉じられた黒猫のまぶたの淵から、つう、と涙が一筋こぼれる。 だが俺がちろちろと黒猫の舌先を舐めると、黒猫もおずおずと自分の舌を伸ばしてきてくれた。 俺はなんだか勿体無くて目を閉じてはいなかったから、その無防備さに場違いなほほえましさを 感じていた。やさしく、やさしく……親鳥が雛をあやすように、驚かせないようにそっと 舌同士を絡ませる。だんだん黒猫の舌が伸びてきて、口の外で舌をじゃれつかせあった。 「はぁ……はぁ……」 黒猫の吐息が、熱く、荒くなる。少しずつ深くなる舌の絡みつきは、やがて唇が くっつくまでになった。 そろそろ黒猫の身体をひっくり返して、仰向けになるようにして首をひねった姿勢から 開放してやる。俺は今だ黒猫の腋の下をくぐるように両手で抱きしめているから、 自然と黒猫は俺の頭を抱えるような体勢になる。夢中でディープキスを続けるうち、 黒猫の腕にもギュッと力がこもって俺を抱きしめてきた。 そこから先は特に書くことは無い。 なんでって、俺と黒猫はひたすらにその体勢でキスし続けていたからな。 いや、我ながらよく飽きねーもんだわ。終わりのほうになると黒猫も俺も 大胆なもんで、相手の舌を吸い出したり唾を飲んだり、思い切り舌をのばして 口中を舐めまわしてみたり、色々した。 日が傾いているのに気づいて口を離した時には、お互い息が上がってた。 告白が終わったら速攻チュッチュペロペロとは、我ながらエロガキだぜ。 「その。……しない、の?」 「ああ。今日はやめとこうぜ。俺はまだ、その前の段階をお前と楽しみたいんだ」 「そう。……そうね。私も……先輩と、一つ一つ、いろいろな事を経験したい」 「ありがとな。……まあ、一つ一つと言うには今日はがっつきすぎたって感じだけどよ」 「そうよ、本当に。まさかいきなり尻をもまれて舐めまわされるとは思わなかったわ」 「いや、ほら。アレだよ、俺だって毎日お前のあんな格好を見て悶々としてたんだぜ?」 「ふふ……人が真面目にゲームを製作している時にあなたは私の太ももを見て発情していたの?」 「だ、だってしょうがねえだろ? 気になる女の子にあんなことされたら……」 「そうね。その言葉に免じて赦してあげましょう。……優しくしてくれて、嬉しかったし」 「ん? なんて?」 「彼女を処女のまま身体だけ開発したがるなんて、エロゲ脳の末期症状ね、といったのよ」 「ひ、否定できない……!」 「いや、否定して欲しかったのだけど」 こんな感じで、俺たちはきっとうまくやっていけるだろう。そう思った。
https://w.atwiki.jp/teitoku_bbs/pages/1753.html
744 :Monolith兵:2013/08/13(火) 01 02 20 ネタSS「俺の妹が○○○なわけがない!」 外伝2 「俺のクリスマスがこんなに充実・・・」 クリスマスイブ。キリスト教が主流のヨーロッパではクリスマスを家族と共に祝う日だが、日本では何故かクリスマスイブに恋人や夫婦が互いの愛を確認する日となっている。師走の忙しい時期に楽しめるイベントとして定着していた。 そして、とある1組のカップルもその例に漏れず、某所でデートを楽しもうとしていた。 「お待たせしました、京介さん。」 「いや待っていませんよ。では行きましょうか。」 とあるカップルとは高坂京介と赤城瀬菜であった。この二人は互いにアプローチを掛けてくる異性を諦めさせる為に偽装交際をしていた。でなければ、中身爺同士で付き合うなどということは絶対にありえないことだった。 「所で、・・・来ているんですか?」 「ええ。着いてきていますよ。」 京介の問いに瀬菜は暗い顔をして答えた。瀬菜は超シスコンの兄を持っている。それはもう実の妹に欲情するほどの変態シスコン馬鹿兄貴なのだ。だが、イケメンスポーツマンであるので、周りには「あんなお兄ちゃんがいていいなぁ。」とか思われてしまい、その危険性を理解してくれる人は数が少なかった。 「大丈夫ですよ。私に任せてください。それに・・・今世の友人が人の道を踏み外すのは見ていられません。」 「お願いします。」 自分に任せろ!という京介に瀬菜はドキッ!とする、等という事は無くつつがなくデートは進んでいった。流石に超シスコンとはいえ街中で修羅場を作る勇気は浩平にはないようであった。 それからの二人はまるで恋人同士のように楽しく過ごして言った。本人たちは互いに中身爺だと知っている為に、恋愛感情はない。これは友達デートであると自分たちに言い聞かせ、偽装交際しているがあくまで友情の延長だと自分に言い聞かせていた。だが、それを抜きにしても前世からの友人である2人の仲は深く、傍目から見ると恋人同士にしか見えなかった。 2人のデートはまさにテンプレというに相応しかった。軽いウインドウショッピングに高校生にしては背伸びしたレストランでの食事、互いのプレゼント交換など、特にバイトをしていない高校生としては普通のデートであった。 「しかし、こういうものもありですね。確かに現在は異性ですけど、友人同士でクリスマスを楽しむには丁度良かったですね。」 「そうですね。私としても今日は楽しかったですよ。これなら十分恋人同士に見えるでしょうし、双方共に苦痛を感じないので上手くやっていけそうですね。」 瀬菜の言葉を京介は肯定した。いくら友人とはいえ異性だと、特に思春期だと相手を意識してしまうものだ。しかし、この二人は互いに前世からの友人である為にそれがない。故に偽装恋人としての相性は最高であった。 「所で・・・、ホテルには行くべきですかね?ああ、勘違いしないで下さいね?」 瀬菜が軽く視線を向けた先には建物の陰に隠れた気でいる兄がいた。京介はそれを見て心の中でため息をついた。 「クリスマスイブで、思春期の2人がデートしてそのまま帰るというのも・・・。私にその気はありませんが・・・。」 「決まりですね・・・。はぁ。」 そうして、二人は全く気乗りせずにラブホテルの中へと消えていった。 「うううっ、瀬菜ちゃん・・・。己高坂許すまじ!」 それを建物の影から見ていた超シスコン変態兄貴は京介に対する憎しみを滾らせていた。 745 :Monolith兵:2013/08/13(火) 01 02 53 しかし、彼らを見つめる眼は他にもあった。 「素晴らしい!」 「ええ!これまで私たちは辻×嶋田しか見ていなかった。でも、東条×嶋田という新境地が・・・、いえ!辻×嶋田×東条という三角関係が存在するなんて!!」 「噂では五更瑠璃さんは富永恭次だというけれど。それが本当なら互角関係!?」 「なんて、なんて素晴らしいの!次のコミケはこれで決定よ!!」 そうして、腐った方々の努力の結果、その年の冬のオタクの祭典では伝統の辻×嶋田のみならず、東条×嶋田や辻×嶋田×東条や辻×嶋田×東条×富永という三角関係や四角関係の薄い本が大量に出回ることになる。京介は受験を言い訳にコミケに参加せずそのことを知らなかったし、他のメンバーもやおいには興味が無かった為にその事実に気づくことはなかった。 また、とあるネタとしか思えない名前を持つ女性が、友人の手伝いをしているうちに嶋田×山本の薄い本を読んでしまい「何で嶋田と俺が!!」という悲鳴を上げたりもしていたがそれは余談である。 なお、高坂家の腐った女性筆頭である佳乃により、それらの薄い本が高坂家に持ち込まれ、京介と桐乃があまりな内容に胃とSAN値が削られてしまうのも完全な余談であった。 おわり
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/505.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1306742825/412-417 ぱあ――――――ん こんな形での目覚めは正直悪くないと思っている俺は重篤なシスコンだ。 久しぶりに妹のビンタで眠りから呼び戻された俺は、リビングのソファーの上で 体を伸ばし、目の前の妹・桐乃の顔を改めて見る。 少しばかり上気したように見えるが、いつも通りに垢抜けた女だ。 つーか、何でビンタなんだよ。優しく起こしてくれてもいいじゃねえか。 「キモ。アンタ、寝ながらニヤついていんのが、超キモいんですケド」 ああ、ニヤついていたのか俺。そういえば、何かスゲーいい夢を見ていたような 気がするが思い出せない。良いところでビンタを喰らって起こされたから 記憶に残ってないぜ。もうちょっと優しくだな‥‥‥と、俺の携帯が震えだした。 あやせからのメール‥‥‥? フッ。返信よりも早く突撃してやるぜ。 「ちょっと、ドコ行くのよ?」という桐乃の声が聞こえた気もするが、 そんなのはあやせと会えることに比べれば些細なことだった。 ‥‥‥‥‥‥ 「お、お兄さん!? いくら何でも早すぎませんか?」 「お前からのメールだからな。光よりも速く参上したぜ」 「ま、まさか、普段からこの家の周りを彷徨いているんじゃ?」 「何をバカな。そんなことはしてないぞ。今のところはな」 「‥‥‥とりあえず、上がってください」 いつものように、あやせの部屋に通された俺。相変わらず整理整頓され、 清楚な石鹸の香りに満たされた部屋は、香水臭い我が妹の部屋や、 線香臭い我が幼なじみの部屋とは全然違う。なんかこう、胸が高鳴る感じだ。 「お茶を淹れてきますので、待っていてください」 そう言うとあやせは階下に降りていった。中学生の女の子の部屋に一人残された 俺は、やや興奮気味に無意味に部屋の中を見回す。勉強机、ベッド、姿見、 そして箪笥と、年相応の部屋の佇まいである。 ん‥‥‥? 箪笥? たんすか。タンスだな。それもあやせの箪笥だ。 でも目の前の箪笥を漁るなんて出来ないよな。なにせ、この手錠が‥‥‥ アレ? 手錠は? 手錠が‥‥‥無い!! 手錠がないのを忘れていたぜ。 どんだけ、手錠に慣らされてたんだ俺。ということは、俺は今、手錠無しで あやせの部屋に一人きり。ようやくあやせの信用を得たもんだと感涙に浸って いると、目の前にはあやせの箪笥。当然中身は‥‥‥あやせのモノの筈だ。 そして箪笥を開けるとそこには ♪あーった あーった あやせの下着 ♪なーらんだ なーらんだ 白 しろ しーろ ♪どの下着見ても きれいだな てな光景が広がるに違いない。というわけで、ここはお約束の箪笥漁りに限る。 あやせが手錠をかけないのが悪いんだぞ! と、開き直りも時には悪くない。 階下でお茶を淹れているあやせが戻るまでのつもりで、俺は箪笥の取っ手に 手をかけた。だがその途端、トントントンと階段を昇る軽やかな足音。 ヤバい! 俺は後ろ髪を引かれながらも箪笥から離れ、元居た位置まで戻ろうと する。が、その瞬間、足が縺れ、あっ、と思う暇もなく転んでしまい、 ゴン とベッドの角に頭をぶつけてしまった。 「―――お兄さん!? どうしたんですか!?」 あやせの声で気を取り戻した俺が見たのは、ラブリーマイエンジェルの顔。 頭を打った俺は情けないことに失神していたらしい。 ツイてねえな、と思いつつ俺は迂闊にも箪笥の方に視線を送ってしまった。 当然、そんな俺の視線の動きをあやせが見逃すわけがない。 「お兄さん‥‥‥? どうして今、私の箪笥の方を見たんですか?」 当然の追求だ。だが今回は箪笥の取っ手に手をかけただけの未遂だ。 断じて開けてない!と正々堂々と言い逃れが出来るはず。 しかしそんな言い逃れがあやせに通用するわけがない。ここは完全否認だな。 「何を言っているんだ。俺はただ転んで気を失っていただけだ」 「どうして、わたしの部屋で転ぶのですか? 座っていただけの筈なのに」 「気のせいだろ」 「ふ~ん。お兄さん? しらばっくれるんですか?」 「何のことだ? 俺にはわからんぞ」 するとあやせは机の引き出しから何やら取り出し、そのブツを俺に見せつける。 「お兄さんご存じですか? 最近は通販で指紋検出キットを売っているんですよ。 箪笥に付いている指紋とお兄さんの指紋を比較しましょう」 げっ!! そんなモノ売っているのかよ!? そしてなんでそれをあやせが!? ヤバい。箪笥を開けてはいないが、取っ手には手をかけた。 ということは指紋が付いているってことだ。 俺の明日はもう無いぞ。どうする京介? こうなったら‥‥‥よしっ! 「うおおおおおおおおお!!」 「きゃっ!!」 俺は大声を上げてあやせを威嚇し、箪笥のあちこちを手で触りまくった。 無論、取っ手も含めてな。これで俺の指紋が出ても言い訳が出来る。完璧だ! 「お兄さん‥‥‥何てことを! 証拠隠滅を図りましたね?」 あやせが光彩の消え失せた目で俺を睨む。まあ、想定内だ。 そしてビンタを俺の左頬に炸裂させた。コレも想定内だ。 あやせは、ビンタを喰らってブッ倒れた俺に向かって指紋採取に使う粉が入った 容器を投げつけた。蓋が開いていたようで、姿見に映る俺の顔は粉まみれ。 酷いもんだ。俺の左頬にはあやせの手形がクッキリと浮き出てやがる。 さすが指紋検出キット。証拠隠滅は正解だったようだ。 そして恐る恐るあやせの顔を見ると、真っ赤に染まったあやせの顔があった。 「―――ッ! あ、ああッ!!!」 俺の顔を見たあやせは酷く動揺した様子でタオルを手に取り、俺に近づいてくる。 ヤバい。タオルで俺の首を絞める気か? マジヤバい。殺される! 俺は全力であやせの部屋から飛び出し、階段を駆け下りて新垣邸から逃げ出した。 前回、あやせの家から逃げ出した時は簡単に逃げ果せたが、今回は違った。 「待てエエエエエエエエ!!」 なんで今日に限って追いかけてくるんだよ? それもタオルを持って。 捕まったらマジ殺される。そして埋められるに違いない。 人生に未練のある俺は逃げる。執拗なあやせの追跡を躱しながら、 現在を、今夜を、そして明日を生きるために。 何とかあやせを振り切った俺が我が家に着くと、玄関から出てきた黒猫と沙織に 会った。そう言えば桐乃のヤツ、この二人と家で遊ぶとか言っていたな。 だがそんな二人は俺の顔を見るなり、 「破廉恥な雄ね。地獄に堕ちるがいいわ」 「京介氏、お盛んですなあ」 確かにあやせの部屋で破廉恥未遂を働いたよ? だけどそのことがビンタの痕 だけでバレるのかよ? 俺が怪訝な表情をしながら玄関のドアを開けると いきなり桐乃と出くわした。桐乃は粉まみれの俺の顔に一瞬驚いた様子に なったが、直ぐに酷く困惑した表情になり声を荒げた。 「ぬあッ!? な、なななな‥‥‥ッ!!」 「俺、そんなに酷い顔か?」 「そ、そこを動かないで!!」 「はい?」 桐乃は俺に『待て』の命令を出すとリビングに飛び込んだ。 一体なんだよ?と思っていると、タオルを手にした桐乃がリビングから出てきた。 ‥‥‥コイツまで俺を殺す気かよ!? 冗談じゃねえ!! 俺が一体何を? と思った次の瞬間、バンッと玄関のドアが乱暴に開けられる音。 外から射し込んだ光でシルエットになった黒髪の美少女は新垣あやせその人だ。 げっ!! ここまで追いかけてきたのかよ? その執念は一体!? そして肩で息をしているあやせの手にはタオルが。ヤバい。殺される! 茶髪と黒髪の美少女二人に挟まれた俺は為す術もなく、取り押さえられた。 そして二人の美少女はタオルで‥‥‥俺の‥‥‥顔、というか右頬をこれでもか と言うほどに擦りまくった。イテテテテ、何をするんだよ!? ‥‥‥‥‥‥ 「お兄さん、どうもお邪魔しました」 あやせはにこやかな表情でそう言うと、まるで何かを成し遂げたかのように 満足そうな様子で我が家をあとにした。さっき玄関に踏み込んできたときとは えらい違いだぜ。 「ア、アンタが暴れるから、力が入ったダケだかんね!」 桐乃はツンケンした表情でそう言うと、やはり何かを成し遂げたかのように 満足そうな様子で二階に上がっていった。 一体何なんだよ? と思っている俺に向けられた視線を感じた。 視線の主は黒猫と沙織だ。俺たち三人の狂乱状態を玄関の外から見ていたようだ。 「今の‥‥‥見てたのか?」 「当たり前でしょ。あれだけの狂った宴を見過ごすほど莫迦じゃないわ」 「いやはや、京介氏は恐るべき女泣かせですなあ」 「女泣かせ? 何を言っているんだ?」 「あら、惚けるのかしら? それとも本当に気付いてないのかしら?」 「意味わかんねえ。何か知っているのなら教えてくれよ」 「貴方が破廉恥で鈍感な雄だと言う自覚を持たせるために、千葉の堕天使が導きを説いてあげるわ」 いつもの通り、厨二病丸出しの黒猫が携帯を弄ると、俺の携帯が震えだした。 「その添付画像をよく見て、スイーツ(笑)共が何を考えていたのか考えて頂戴」 「では拙者共はお暇を」 黒猫と沙織を見送った俺は、送られてきたメールを開き、添付の画像を見た。 そこには、狂乱状態にあった俺たち三人の姿を写した写メが表示されていた。 よく見ろってどういうコトだよ? と思いつつ画像を舐めるように見ると、 俺の右頬‥‥‥? あやせに投げつけられた粉のせいで白っぽくなっている。 ん? 何だコレ? よく見ると何か模様のようなモノが? コレは‥‥‥キスマーク!? 指紋検出の粉でくっきり浮き出てやがる。 でもなんで? どうしてキスマークが?? 『貴方が破廉恥で鈍感な雄』 今になって黒猫の言っていることの意味がわかった。 キスマークなんて付けて表を歩いたら、みっともねえったらありゃしねえ。 あんな必死になるなんて、桐乃もあやせも俺に恥をかかせまいとしたのだろう。 あいつらに感謝しなくちゃな。 それにしても、このキスマーク、一体誰が‥‥‥? 『アメとムチと鈍感』 【了】
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/408.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296227693/458-466 「そういや、あやせ」 その日、学校からの帰り道で寄り道した俺は、偶然あやせと遭遇した。その時、ふと疑問に思っていたことを訊ねてみることにした。 「あやせって、随分体柔らかいよな」 「な……、人の体をじろじろ眺め回して、この変態ッ!」 「バッ、そんなんじゃねーっての! ほら、前に公園でかましてくれたハイキックがなかなかだったもんだから、ちょっと気になっただけだよっ」 コイツは相変わらず、俺のことを変態扱いしやがるぜ。まあ、それはある建前のせいなんだが、それを撤回するわけにもいかないしなあ……。 マイラブリーエンジェルあやせたんルートか、なかなか手強いぜ。 「で、なんかあやせはスポーツとかってやってたりするのか?」 「気になりますか?」 「いや、別に」 そう答えたら、呆れたような顔をしてあやせが肩を落とした。『聞いておいてなんなんですか……』とでも言いたげな表情だ。 まあ、実際そうなのだが、俺だってふと疑問に思っただけで、どうしても知りたいってわけじゃない。教えてもらったからといって、なにがどうこうってわけでもないしな。 割と身勝手なことを言っているかもしれないが、俺を嫌っているあやせからしてみれば歯牙にもかける必要のない話だろうさ。 「お兄さんが身勝手な変態だというのはよく分かりました。まったく、救いようのない変質者ですね、キモイので二度と息をしないでください」 「おいぃっ!? 俺そこまで言われるようなことしてないだろ!」 「いいえ、しました。大した用事もないのに、私に話しかけてきました」 「じゃあ用事を作るからちょっと待っててくれ!」 用事か……用事、うーん。 特に用事もないんだが、なあ……。そうだ! 「あやせ、俺の彼女になってくれ!」 「死ねェ!」 はっはは、あやせさん、そこは男の魂ですよ。 真っ直ぐに蹴り上げられた足は、見事な軌道を描いて、男の勲章、雄々しきオスの証、あるいはマツタケ――有り体にいえば、股間にクリーンヒットした。 ……お、俺は、あやせの愛を受け止めるぜ……。 「なっ、ななななになにをいってるいって――」 そう言いたい気持ち、分かるぜ。俺だって、どこを蹴ってるんだと声を大にして言いたいさ。 だけどな、あやせ。俺の現状を見ろ。心の中でこそ冷静だが、身悶えしまくってアスファルトの上で木偶の坊になってるじゃないか。 つまりな、そういうことなんだ、そういうことなんだよ、あやせ。 「ううううううウソはきらきらキラッ、嫌いだと何度言ったら分かるんですか!」 「ウッ、ソじゃないぞ!」 涙目になりながらも、俺はあやせの言葉を否定する。 「俺はッ、お前のことが好きなんだ、心の底からッ」 「――ッ!」 「いつもいつも、お前は俺のことを嫌いだって言うけどな、仕方ないだろっ。桐乃のことをいつも大切にしてくれるし、歩み寄ろうとしてくれてる。それだけで俺はっ、俺は……」 上手く言えない。いつもなら、スイッチが入ってしまったら一直線だというのに、俺は一体どうしたんだ。 いい機会だと思った。打ち明けるタイミングを、見計らっていた。でも、怖かったのさ。 変わらない生活、平穏な人生、無難な選択肢だけを選んで生きていけたらいいと思っていた。 だけどそれじゃ、駄目なんだってさ……エロゲーから学んだよ、正直。だって、どの選択肢もキワモノなんだぜ? 安全牌がいつもあるなんて、思ってちゃいけねーってよ。 そう、思ったんだ。 空気が凍りついたのが分かった。きっと、いつものように、俺はあやせに罵倒されて、終わるに違いない。あるいは、それでいいのかもしれない。それでいいんだ。それでいいのか? 可憐な唇から、次の言葉が紡がれるのを待つ。 時間を長く感じた。 思えば、特定の誰かに恋愛感情を抱いたのは初めてだ。そりゃ、麻奈実とか、仲のいい女友達はいたりするよ。それでも、こういう感情を抱くような距離感で接することのある女の子は初めてだ。 時間の流れが、海底に沈殿した動植物の死骸が石油に熟成されるまでのように、十階建てのビルが完成するまでのように、あるいはレモンに蜂蜜が染み渡るまでのように、長く感じたよ。 正直に言おう。俺はこの時、緊張している。本格的に、徹底的に俺という存在をあやせが拒否するかもしれないってな。 思わず顔を伏せったよ。ったく、俺らしくねえ。こういう時の俺って、猪突猛進の馬鹿野郎になるんじゃなかったのかよ。 「……なこと」 「え?」 「そんなこといきなり言われたって、答えられるわけないじゃないですかッ!」 突然あやせがキレた。 「私がお兄さんに好きだと言われるなんて、あっちゃいけないんですっ。そんなの……そんなの間違っているんですよ……!」 「な、なにお前泣いて……」 「泣いてませんっ」 明らかにウソだ。だって、ほら。大粒の雫が、あやせの瞳からは零れ落ちているのだから。 次から次へと、滾々とそれはせり上がってくる。 「っく、お兄さんに好かれちゃ、いけないんですよ、私は……」 「はあ? どういうことだよ」 「言えませんっ」 「どういうことなんだ、あやせ!」 思わず俺はあやせの両肩を強く掴んだ。ビクゥっと効果音がしそうな勢いで、あやせは体を硬直させる。 すぐに我に返ったあやせが、腕を突っ張って俺を突き放そうとしてくるが、それに逆らって俺はあやせと真っ直ぐに目を合わせる。 「いや……離して……」 「どうして俺がお前を好きになっちゃいけないんだ? そんなに、俺が嫌いなのか、あやせ」 「ち、ちがっ……」 「ならどういうことなんだよっ」 分かってるさ、暴走だって。 だけど、ムカついたんだ。俺が好きになるのは俺の勝手なのに、それがいけないことだなんて言う。 いつものあやせがそう言ったなら、大人しく振られたさ。だけどよ、あんなにボロボロ泣きながら言うなんて、そりゃあ……俺があんまりじゃねえか。 「……お兄さんには言えないんです。だから、その……痛いです」 「す、すまん……」 最低だな。 最ッ低だ、俺は。……最低だ。 「俺と付き合うつもりは、無いって事だよな」 「……前にも言ったじゃないですか。現状でお兄さんと付き合うなんてあり得ない、と」 そうだな、確かに言っていた。 あやせの家に行ったときのことだ。手錠をかけられて、そりゃあもう散々な目に遭ったんだぜ。 ま、正直俺は結構楽しかったんだけどな。 だからさ。だから、俺はこう言った。 「分かった」 「ぇ?」 「何も聞かないし、言わせようともしない。だからよ、もう泣き止んでくれねーかな?」 「こ、これは汗ですからっ。泣いてなんかないです!」 「そうか……じゃあちょっと、あやせの汗でも嗅がせてもら――」 顔を近づけた俺の後頭部に、腕が回された。 「死ねェ、変態!」 強烈な膝蹴りが、俺の顔面を押し潰した。 ……ふひひ、いい蹴りだぜ、あや……せ……。 やっぱり、こういう空気じゃねーと、な。 あやせが立ち去る音が聞こえる中、地面に倒れ伏した俺――高坂京介は、角を曲がって消えるあやせの背中を見送った。……ったく、相変わらず連れないやつだぜ。 少し説明しておこう。新垣あやせ――俺の妹の、『表』での親友だ。 表というのも、妹の桐乃はある秘密を抱えている。そりゃ、読モやってたり、書いた携帯小説が大ヒットしたり、陸上の強化選手に選ばれたりと、色々と凄い奴なのだが……学校ではあやせ以外に、誰にも知られていない秘密があるのだ。 妹モノのエロゲを愛している、超超オタクだという秘密が。 忘れもしない去年の夏。偶然桐乃の秘密を知った時は、散々だったぜ。アイツのために、平凡だった俺の生活は一変したのだ。 色々と奔走して、様々な人と関わって……本当に、大変だった。 けどよ、俺は桐乃にとても感謝している。平々凡々を愛しているとか、求めているとか、そういう言い訳ができなくなっちまったんだ。 いつだって前に進まなきゃならない。時間は、周囲の環境は、いつだって動いてるんだって、な。 自分には関係ないって嫌ってた桐乃が、きっと羨ましかったんだって、今なら言える。そして、桐乃のおかげで、俺も少しずつ自分の人生を歩き出すことができつつあるのだ。 ……本当、アイツは凄いやつだ。関わった人間を変えてしまう才能があるのかもしれないな。 昔は――一年前なら、俺はこんなこと思わなかっただろうさ。 桐乃のことが、大好きだってな。 玄関の扉を開けると、偶然にも桐乃と鉢合わせした。 「……ただいま」 「うん……」 いかにも気まずいやり取りをして、俺は家の中へ上がる。 そりゃ、冷め切った頃のような関係よりはだいぶマシになったけどよ……今年の夏も、色々とあったんだって。御鏡とか御鏡とか御鏡とか……うん、御鏡ばっかだな。 注釈を入れておくと、御鏡ってのはいけ好かない完璧ボーイだ。どういう風にいけ好かないのかとか、完璧なのかとか、そういうのを聞くのは野暮ってもんだぜ。 リビングに入ろうとする俺の背中に、桐乃が声をかける。 「あのさ、これからちょっと、あやせと遊んでくるから。門限までには帰るって、お父さん達に言っておいて」 「……おう」 「じゃ、行ってくるから」 珍しいこともあるな。桐乃のほうから、こういう話を振ってくるなんて。 エロゲーなら間違いなくデレ期がやってくるが……まあ、現実ではありえないことだ。ソファに座った俺は、バッグから買ってきた本を取り出してそれを広げた。 最近俺は、メディア関係のものに多く触れてきた。小説や漫画もそこそこ読むし、ニュースだって毎晩見ているが、桐乃の出ている雑誌なんかも見るようになったし、何よりアニメやゲームなんかに触れる機会が増えたからだ。 黒猫と一緒に、原稿の持ち込みをしたりしたのもいい思い出……といってはなんだが、貴重な体験ではあった。 実をいうと、俺がこの本を買おうかどうか迷っていたのは、その頃からだ。いや、むしろ桐乃とあやせの友達の、来栖加奈子のマネージャーをやったことが大きなきっかけだっただろうか。 と、その前に、桐乃の『裏』の友人にも説明をしておこう。 黒猫――本名は五更瑠璃というのだが、桐乃からは黒いのとよく呼ばれている。ゴスロリファッションで痛々しい言動が目立つ、俺の後輩だ。よく、刺々しいことを言うが、本当は友達思いないい奴だ。 もう一人、沙織というオタク友達がいる。こちらは百八十センチという女子高生らしからぬ長躯に、ジーンズやシャツイン、ぐるぐる眼鏡といったオタクファッションだ。 ところが、繊細な気配りが出来るとってもいい奴で、オタクコミュニティ『オタクっ娘あつまれー』の管理人だ。ついでに、眼鏡を外すとすっげぇ美人。いやもうマジで! 俺の平凡な日常を、容易くぶち壊してくれた……恩人達だ。 ……ふぅ。 時計を見れば、もう本を開いてから一時間以上経っている。 少し、一息入れますか。 そう思って、冷蔵庫に飲み物を取りに行った時、玄関からなにやら話し声が聞こえてきた。桐乃がもう帰ってきた……なんてことは、ないだろうな。 が、俺の意図とは反して、リビングに入ってきたのは桐乃その人だ。後ろにはあやせの姿もある。 「ゲッ」 ゲッてなんだよ、ゲッて。 「お兄さん、お邪魔してます」 微妙に光彩のない瞳を向けられ、一瞬ビビる俺。うう……マイラブリーエンジェルあやせたん、それはサツジンシャの目ですヨ? 「い、いらっしゃい」 「……邪魔なんだけど」 へいへい、わーったよ。 ま、友達が家族と鉢合わせるのって、確かに微妙に嫌だよな。大人しく退散するとしますか。 本を手に、その場を離れようとする俺だが、あやせが声をかけてきた。 「あれ、お兄さん、その本って……」 「へ?」 「あ、やっぱりー。そっか、お兄さんマネージャーさんになりたいんだー、へーえ」 こ、声が怖いんですけどあやせさん? 「は? あんたがマネージャーとか絶対無理そうなんですけどー」 「い、言ってくれるじゃねえか……」 確かに難しい仕事かもしんねーよ? でも、ほら、わっかんねーじゃん? 実際、俺には加奈子のマネジメントを遂行したって実績があるわけだし、頭ごなしに否定すんなよ……つっても、桐乃がその事知るわけないから否定するのも当然か。 「っていうかお兄さん、付き人もロクにできなさそうなんですけど」 「ぐっ」 そりゃ、確かに……。実際、モデルとして現場を見てきてる二人には、俺がマネージャーなんて無理! って発想のほうが納得のいくことが出来るのかもしれん。 けれども、俺だって初めて、自分の夢と呼べるようなものを見つけたかもしれんのだ。何から勉強すればいいのか分からんが、やるだけやってやる! 「へっ、そのうち敏腕マネージャーとして、業界に名を馳せてやるさ」 「ふーん、言うじゃん。ま、億に一にもありえないと思うけど、頑張ったらいいんじゃん?」 投げやりにそう言って、桐乃はリビングを出て行く。 「あやせ、上行こ。……あんた、邪魔とかしたらお母さんに次の隠し場所教えちゃうから」 「うっ……なんでお前が知ってんだ!」 絶対見つからない隠し場所だと思ったのに! しかもアイツ、無視っていきやがった。はぁ……。 あやせも、俺の方を窺いながらも、桐乃の後に続く。なんだかなあ、ちょっとぐらい応援してくれてもいいじゃねーかよ。 ……いや、ある程度の努力とか、積み重ねとかしねえと、認めてもらえないのかもしんねーな。ちょっとぐらい、気張ってみるか。 黒猫の呼び出しを受けたのは、その翌日だ。 いつかと同じ、校舎裏。空は赤らみ、夕焼けが虹彩を焼くように辺りを照らしている。 長く伸びる影法師の向こう側で、ぽつねんと心侘しげに黒猫がベンチに座っていた。記憶の中で、一人弁当を食べていた――メルルの弁当を食べていた姿と重なる。 「――よう」 「やっと来たわね」 「ま、あんな内容のメールじゃあな」 『放課後、約束の地にてあなたを待っているわ』だなんてよ、ちょっと分からなかったぜ。一度黒猫のクラスやゲー研にも行ってみた。最後の心当たりが、この場所だったというわけだ。 「まったく、待ちくたびれたわ。本当に愚図な男ね」 「……すまん」 「まあいいわ。あなたは私の眷属であるからして、多少の非礼は大目に見てあげましょう。もちろん、どうして呼び出したのか分かっていらっしゃるでしょうね?」 早口でそう口走る黒猫は、いつしか立って、正面から俺を見据えていた。 「そりゃどうも。……桐乃と仲直り、できたらしいな」 「ええ、一昨日、電話で。――沙織やあなたにも心配をかけてしまったようね、ごめんなさい」 「そいつぁ別にいいんだけどよ。お前達が仲直りしてくれて、よかったよ」 サークルクラッシャー男呼ばわりされるのも嫌だしな。 「明日の打ち上げ――楽しみにしてようぜ」 「そうね――ええ、楽しみよ。……ところで、用件は分かっているのかしら、分かっていないのかしら?」 「あのメールで察しろってほうが無理だろ」 「本当に……愚図ね……」 いや、あの、さっきから愚図愚図言うのやめてくれません? という俺の心情を完全に無視して、すうっと黒猫が目を細めている。指が忙しなく動き、不安そうに宙をまさぐっているようでもあった。 「そう、分からないのなら教えてあげるわ。…………その、〝呪い〟を〝解呪〟してあげようと思って」 「呪い?」 「ここで、あなたにかけた…………〝呪い〟」 「……ああ」 それを聞いて、俺の頬がカアっと熱くなった。 〝呪い〟って、その――――キス、のことだよな? 黒猫の顔も、夕暮れとは別の赤に染まっている。 「か、解呪って……」 「っ、あなた今変な妄想をしたわね!」 物凄い勢いで叱られた。その迫力に圧された俺は、正直に答えてしまう。 「いや、その……同じことをされるんじゃないかと」 「馬鹿言わないでちょうだい。まったく、破廉恥な雄ね」 「ご、ごめん」 いや、でも、普通ならそういう想像をするんじゃないか? しかし黒猫は、謝る俺に答えることはせず、そっぽを向いて膨れている。 そしておもむろに――口を開いた。 「呪いは、解けないわ」 「はァ?」 「い、一度かかってしまった呪いを解くことは……不可能なのよ」 おいおい、言ってることが違うじゃねえか。 「あの呪いであなたは私の眷属となり、ファミリエとなったわ。それはもう、二度と解けない呪い……私達二人の関係を変えるには、新たな呪いで上書きをするしかないの」 「お前の『願い』を叶えれば、呪いは解けるんじゃなかったのか?」 「ええ――ええ、確かにあなたにかけた呪いは、今では効力は失われているわ。……けれども、それはあなた自身にかかった呪いが解けるというわけではないのよ」 まったく、意味の分からないことを言っている。完全に電波が入ってしまっているが、余裕のない黒猫の顔を見ていると、いい加減にしろだの、わけが分からんだのと言うのは野暮のような気がしてしまう。 黙って、次の言葉を、俺は待つ。 「だから強力な呪いで、再びあなたを拘束するしかあなたを解放する手段はないの。――ええ、そうね、その呪いを、これからあなたにかけてあげましょう」 逡巡、動揺――一抹の不安。 そういったもの全てを孕んだ、この世で古く、忌まわしく、そして甘美な響きを持った呪いの言葉を――黒猫は口にした。 「私と、付き合ってください」 この時の俺の驚きようったら、大したもんだった。 俺は丸々五分も、その言葉の意味を理解できずにいたね。 だって、そうだろ、あの黒猫が――俺にまさか告白、だなんてよ。 「べ、べべべ別にこの呪いをあなたが許否したとして、決して全身から血を噴き出して死ぬようなことはありえないわ。確かにこれは強力な呪いだけれど、呪術としての危険度はまったくないのよ」 何も言わない俺に、黒猫が慌てた様子でそう言った。 挙動不信気味になった黒猫は、眼球を凄まじい速度で動かして、おどおどし始める。 そりゃ、告白なんて勇気のいることだ。何も返事をしないことで、不安がるのも無理はない。 だからさ、俺は正直に答えちまったよ。……無理、だってな。 「そう……それなら、いいわ。あなたに一度かけた呪いは解けない、けれどもその効力は今はない、だから解呪しなくてもさしずめ問題はないものね」 「本当に、ごめんな、黒猫」 「………………理由を伺ってもいいかしら?」 「他に好きな女の子がいるからだ」 隠すつもりもなく、俺は即答した。そうすることが、一番いいと思っていたからだ。 「それはあのビッチかしら。……それとも、魔王ベルフェゴール?」 「どっちも、違う」 ああ、そうさ。 俺が……俺が好きなのは、あいつだよ。 新垣あやせという、妹のモデル仲間で、親友だ。 「だから、ごめん、な」 「そう」 黒猫は呟くと、無言のままで俺の横を通りすぎていった。 今、どんな気持ちでいるのだろう。思わず振り返りそうになる俺の耳に、押し殺した嗚咽が聞こえてきた。 だから、俺は、黒猫の気配が消えるまで……ずっと前を向いていた。
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/642.html
585 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 33 34.43 ID Jq+Hxm6V0 [1/3] 桐乃「せなちーのお兄さんてイケメンだよねー。」 京介「…チッ、まぁな。」 京介「(赤城、短い友情だったな。お前はこれから俺の敵だわ。)」 桐乃「この前せなちーのお家に遊びに行った時に会ったんだけど…て、何キレてんの~?」 京介「あ?キレてねーよ。」 桐乃「友達はイケメンなのになんであんたは地味面なの?」 京介「関係ねーだろ!兄弟じゃねーんだから!」 桐乃「うちの兄貴もイケメンでスポーツマンだったらよかったのになぁー。」 京介「けっ、そんなこと言うなら赤城の妹にな…………いや、それはあまりに赤城がかわいそうだわ…。」 桐乃「はぁあ!?」 京介「妹に妹モノエロゲーやらされてそのうえBL本まで買いにいかされるとか男として兄として自殺したくなるわ!!」 桐乃「ちょっ、BLは確かにあれだけど妹ゲーはいいじゃん!!」 京介「よくねぇーーーーっよ!!」 桐乃「じゃ、じゃああたしとせなちーのどっちが妹のほうがいい?」 京介「おまえ。」 桐乃「そ、即答とか…き、キモ。」 京介「親父にみつかったのがガチホモゲーだったら俺は死んでも自分のだとかいわねぇ。」 桐乃「……だよねぇ…。……お父さんに鬼畜兄貴が見つかってたら…。」 京介「やめろ…恐ろしすぎて想像したくねぇ…。」 桐乃「…ま、アタシもあんたが兄貴でよかったかな。」 京介「…な、何だよ照れるじゃねぇか。」 桐乃「無趣味なあんたじゃなかったらエロゲする時間なかっただろうしね!」 京介「俺は受験生だぁあああああぁぁぁ!!!!」 586 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 43 37.55 ID 0ufnSJsf0 [3/5] 585 大介にBLゲー見つかって愛してるといってもいいと叫ぶ京介を想像してしまったじゃないか 587 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 45 54.02 ID gxX8biXw0 [4/5] 586 そして自分の身が心配になる大介か… 588 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 47 42.46 ID kjvgVfQE0 [6/6] 「親父…俺、こういうの好きじゃおかしいのかな…」 「…勝手にしろ///」 589 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 50 25.42 ID Jq+Hxm6V0 [2/3] 俺の妹がこんなに腐女子なわけがない…かぁ。 桐乃が腐女子とか色々と詰むなぁ…。 桐乃「あんた腐男子になればいいよ!」 590 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 50 30.77 ID 2lGEvVLo0 588 アッー 591 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 51 24.78 ID Unmpsx4k0 [2/3] どうやってシス婚endに持って行けばいいんだ・・・ 592 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 53 04.76 ID ++RaIY+70 [4/5] 591 簡単じゃないか 「あ、あたし、実は、男の娘だったの。兄貴………大好き///」 593 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 53 17.48 ID gxX8biXw0 [5/5] 赤城×京介で妄想をする桐乃に対抗するなら、 あやせ×桐乃で妄想すればいいだけじゃない 594 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 21 59 02.65 ID Jq+Hxm6V0 [3/3] あやせさん出番なんじゃ… 595 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 02 15.97 ID 54sDwsVa0 [4/4] きりりんとあやせたんはどっちが攻めで受けですか? 教えてください!風邪ひきそうです(><) 596 名前:あやか[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 02 41.91 ID z4FsSxTYi 593 「それは素晴らしいですね! さっそくわた…あやせさんと桐乃のお話を!」 597 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 05 24.39 ID 0ufnSJsf0 [4/5] 595 服着なさいw 598 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 08 42.61 ID GXB7PL7f0 / / `゙==彡 / ,.イ{_ ‘, / / / / ー===―- _ ', ′ -―==ミ、 ヽ} / / `ヽ | ,' / ´ // {> \ | / /, 〃ハ ,ィ==ミ、 | 〈 ー彡 、‘ノ `\ | ブ チ コ ロ シ か く て い で す ね ‘, 丶 / 〃ハ ' , | ‘, ー――‐ .. , l 、‘ノ , ./ ∧ '. 、 . i / i \ 、 . / \ 人, / | \ {j ー― ' /// | /"´ / 599 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 15 54.03 ID w+54Ri+s0 なんという流れwwおなかいたいww 600 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 16 35.28 ID ++RaIY+70 [5/5] 595 待て、俺妹に登場する「女性」キャラが全員男の娘だったとしたら……… あやせたん×きりりんのヤンデレ攻めツンデレ受けとか、最高のご褒美じゃないですか? 601 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 22 14.30 ID BCyZUBPr0 「ストップ!!桐乃くん!!」 602 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/29(金) 22 22 41.02 ID Unmpsx4k0 [3/3] 595 あやせ「桐乃の前に……私しか、いなければいいんだわ……そうすれば……私だけを、見てくれるわ」 612 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/30(土) 00 36 20.87 ID 5BjmiWuci [1/4] あやせの一途な攻めと桐乃のツンデレ受けが鉄板でしょう!それを逆にするなんてあり得ません!このにわかが!…って瀬名ちーの熱弁を変えてみた 613 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2011/04/30(土) 00 45 01.25 ID e/BMdzXD0 [1/14] 612 なんということだ…せなちーと初めて意見が合った…
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/108.html
http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257382677/562-586 あやせのしっぽ 桐乃にちょっとした悪戯をしてくれた黒猫の奴に、俺はほんの些細な仕返しをしてやった。 さすがにコスプレ衣装とはいっても、あのしっぽは無いだろ。 黒猫もしっぽを引き抜かれた時にはさすがに痛みと恥ずかしさとで涙を流していたので、俺は軽く涙を拭ってやったりしたんだが、今度は妙にもじもじとして、あいつはどこか上の空で家路についてしまった。 その結果、黒猫のお手製のネコミミとしっぽが、俺の部屋に残っているわけ。 さて。 これ、どうしたらいいだろう。 さすがに俺が装着するわけにいかない。 それはいくら何でも変態すぎるだろ。 うーん、なんとか有効活用できないかな、これ。 俺の手の中でくねくねしている黒猫のしっぽを前に思案に暮れ居ていたら、ふとネコミミメイド服のあやせの姿が浮かんだ。 いいじゃん!いいじゃん!すげえじゃん! ネコミミとしっぽを装着したラブリーマイエンジェルあやせたん! これが、萌えの力ってやつか! 思わず俺はあやせの携帯に電話していた。 トゥルルルルル・・・ ケータイの向こうで呼び出し音が鳴っている。 あ゛、そういえば今日桐乃があやせと一緒にモデルの仕事って言ってなかったか? やばい、万一桐乃にバレたら、鬼と化した妹様に半殺しにされるんじゃないのか? そのことに思い至った瞬間に、 「はい?」 と、訝しそうなあやせの声が聞こえていた。 「あ、新垣あやせさん?」 かるーく、キョドる俺。 「桐乃のお兄さんですか?」 やばい、めっっちゃ怪しんでる。 「あ、いや、えっと、桐乃、居る?」 「いえ、もう撮影は終わって帰り道です。 何の用事です?」 「いや、その・・・ この間は、ありがとうな。桐乃のこと。 あいつのこと、大切に思ってくれて。 おかげであいつを連れ戻す事ができたよ。」 とりあえず、あやせの注意を桐乃で逸らす。 「そうですね。私も桐乃が帰ってきて安心しました。 ・・・向こうで二人きりのときに、 まさか桐乃に手を出したりしてないですよね?」 いかん。 やっぱり俺、あやせに完全に妹に手を出しかねない鬼畜兄貴と勘違いされたままだ。 「さ、さすがにそんなわけ無いだろ。 俺の妹への愛は海よりも深いんだよ。 そんな肉欲に拘るような陳腐なものじゃないんだよ。」 「・・・」 あやせが押し黙った。 ん、俺、なんか間違えたか? 「それよりさ、おまえら、もう桐乃の帰国祝いってやった?」 「え?」 「いや、ほら、桐乃の奴、予定より早くかえってきちまったからさ、学校でぎくしゃくしてなきゃいいんだけど、って思ってさ。」 「・・・実は、まだなんです。」 言いにくそうに、あやせが答えた。 もしや、以前のように桐乃は微妙な立場になってしまったりしているのだろうか。 沈黙で答えてしまった俺の考えを悟ってか、あやせが答えた。 「いえ、桐乃が留学から突然戻ってきてってことで、クラスで孤立してとか、そういうことはないんです。 その、なんというか、戻ってきたのもあまりに急なことだったので、帰国祝いも準備ができていなくて。 本当に桐乃が心から喜んでくれるようなお祝いをしてあげたいんですが・・・」 なぜか俺はほっとした。 そこで、俺は先ほどから考えていた、あることを持ちかけてみた。 「そうか。 それなら、実は、ちょっとしたアイディアがあるんだが。桐乃の奴が喜びそうな。 ただ・・・」 「ただ・・・何です?」 「いやね、以前にEXメルルのフィギュアをプレゼントしたこと、覚えてる?」 「はい・・・忘れるわけがありません。 あのとき、私にとんでもない事をさせようとしましたよね?あんないやらしい服を!」 「いや、あれは純粋に桐乃が喜ぶ事をだな・・・」 っていうか、おまえもおまえで加奈子に随分なことをした覚えがあるんだけど。 「それはわかっています。 あのとき桐乃、本当に喜んでくれましたから。」 そうだろうよ。件のEXメルルフィギュアはあいつの秘密のスペースに、それはそれは大事に飾られてる位だからな。 表の友達の中で、本当の桐乃を知ってなお、桐乃のことを大切にしてくれてるんだからな、おまえは。 「まあ、あのときは加奈子がメルルのコスプレをしてただろ?」 「今度は私にEXタナトスのコスプレをしろと!?」 ふつ、ふつ、と、ケータイの向こうで綾瀬の逆鱗的なものが刺激されているのではないか、という雰囲気がするが、ここは焦らず言葉をつづけることにした。 「いや、流石にそれはいくら桐乃でも引くだろ?」 とは言ったものの、メルルコスの加奈子に、質量を持った実体だ、3Dカスタム妹だ、とハアハアしてたくらいだから、もしあやせがタナトスコスをしたらそれはそれで桐乃の奴はめちゃめちゃ喜びそうだが、それは言わないことにする。 「そうですね。そこまで非常識な事は、いくら桐乃のためとはいえ、私には・・・」 だが加奈子に逃げられたときに備えてタナトスコスを用意していたあやせの事だ。 もし、それが桐乃が一番喜ぶことだ、と、言われれば、やりかねないだろ。 「ま、まあ、流石にそういうエロい事をやれってわけじゃなくて、ネコミミメイドで桐乃をもてなしてやる、ってのはどうだ?」 「やっぱりコスプレじゃないですか!!! 死ねえええええええええ!!!!」 「ちが、落ち付けって!! ちゃんと話を聞け!! 実はな・・・」 そうして、俺は問題のない範囲で桐乃が裏の友人にもらったネコミミとしっぽに大変ご満悦であったこと、その友人からお揃いの黒猫Ver.のネコミミセットを入手した事を伝えた。 「まあ、確かにコスプレ、と、一括りにしてしまえばそうなんだが、たかがネコミミだ。 ねんどろいどとか、かわいいって、おまえも言ってたよな。 全部とは言わないが、少しはあいつの趣味に理解を示してやってほしいんだよ。 かわいいもの、だったら、まだ許せるだろ? 桐乃が茶トラなら、おまえが黒猫で、一緒にそろったらかわいいと思うぜ?」 「そうですね。 桐乃が喜んでくれるのなら・・・ その程度であれば、私はかまいません。」 「そうか、ありがとうな。」 ほんと、いい奴だよ、おまえ。 「で、いつ、それをすればいいのですか?」 「うーん、そうだな。 さすがにおまえも、まさか外でそんな格好するわけにいかないし」 「当たり前じゃないですか!」 「だよな? じゃ、たとえばさ、今度うちに桐乃と遊びに来るときに、桐乃に内緒で準備しておくってどうだ?」 「それなら、大丈夫です。 実は今日、撮影が終わった後、桐乃の部屋に遊びに行かない?って話もあったんです。 でも、肝心のお祝いをどうしようかってのが決められなくて、また今度にしようって、話になってしまっていて・・・ でも、お兄さんのおかげでなんとかなりそうです。 桐乃には私からうまく言っておきますから、今日これから伺います。」 「そ、そっか。」 こいつ、桐乃のためとなると、実に積極的になるのな。 そんなわけで、あやせが我が家に来ることになった。 そういえば俺、あやせに着拒されてたんじゃなかったっけ? 黒猫のしっぽを手の中でもてあそびながら、そんな疑問をつらつら考えていたところ、暫くして、呼び鈴がなった。 玄関を開けると、あやせがいた。 何故かあやせのイメージに無い黒のゴスロリ系の服装だったが、それも似合っているあたり、さすがは読モといったところか。 「お、おう、久しぶりだな。」 「そうですね。」 淡々とあやせが答えた。 相変わらず何かしたらぶち殺しますよオーラは健在だ。 「そういえば、なんでおまえ、真奈実とケータイ交換してんの?」 いや、それでこの間は助かったんだけど、ふと、疑問に思ってそう聞いた。 「また田村先輩ですか?」 ん、俺、なんかまずいこと言ったかな。 あやせの言葉の端に、何かを非難するかのようなとげとげしさを感じた。 「あ、いや、 ・・・なんでもありません。」 「そうですか。」 「そういえば、桐乃はどうしたんだ?」 話を逸らそうと、あやせと一緒に仕事を終えたはずの桐乃のことに話を移した。 「こんどは桐乃ですか!?」 なぜかあやせがますます不機嫌になる。 ……どうすりゃいいんだよ。 「私は先に帰ってきたんですけど、桐乃は池袋で撮影のあと、なんでもその、趣味の買い物をするとかで。」 んー、そうなのか。 でも、秋葉原じゃあるまいし、池袋でどうするつもりなんだ? 「どっちにしても、ここじゃなんだから、まあ、あがってくれよ。」 いつまでも玄関先というわけにいかないので、とりあえず居間に通すことにした。 「さすがに桐乃の部屋に勝手に入るわけに行かないからさ、こっちで。 あ、いまお茶でも入れるから。」 「ありがとうございます。」 ソファに腰掛け、淡々とあやせが答えた。 そういえば今、この家にはあやせと俺と二人っきりなんだな、と思うと、変にテンションがあがってくる。 間違えてもラブリーマイエンジェルあやせたん!とか言い出さないように自重しよう。 「ところで、なんでおまえゴスロリなの?」 ふと、さっきから疑問に思っていたことを尋ねてみた。 「いえ、桐乃に見せてもらったねんどろいどのキャラクターにネコミミのキャラクターが居て、なんでもネコミミをつけるときはこういう服を着るものだ、というので。」 なにを吹き込んでるんだ、あいつは。 「で、桐乃とお揃いのネコミミって、どんなものなのですか?」 「ん、あ、ああ、 これ、これね。」 黒猫の置いていったネコミミを渡す。 あやせがそれを手に取り、しげしげと眺めている。 ふと、ぴょこ、と、ネコミミが動いた。 「きゃ!」 小さな悲鳴をあげて、あやせが思わず俺に抱きついてきた。 オーマイマイ、ラブリーマイエンジェルktkr! そういえば、いつぞやの桐乃と黒猫と沙織のお手製メイド喫茶の会の時に、黒猫のネコミミがぴょこぴょこと動いていて、桐乃がやたらとツボに入っていたっけ。 「あ、これ、動くらしいんだよね。」 無駄に落ち着いた俺の言葉に、ふと我に返ったあやせが、真っ赤になった後俺を突き飛ばしながら言った。 「わ、私になにするんですか!」 って、俺のせいなの? 「な、なんにもしないって。 ま、まあ、よくできてるだろ?」 「・・・そうですね。 これ、電池でうごくようになってるみたいですね。」 「だ、だろ? まあ、それ、つけてみろよ」 俺は努めて冷静を装った。 もう一つ、動くのがあるんだよね。 「こう、ですか?」 「そうそう。鏡見てみる?」 「そうですね、お借りしてもよろしいですか?」 「いいよ、こっちだから。」 そう言って、あやせを洗面台まで案内する。 風呂場に隣接した洗面台のミラーに、ネコミミのあやせの姿が映る。 しなやかな黒髪と白い肌に、それはやたらと似合っていた。 なかなかどうして、黒猫に負けず劣らず可愛らしい黒猫だ。 引っかかれそうだけど。 鏡の中のあやせのネコミミが、ぴょこん、と、動く。 「あ、これ、かわいいですね。」 「だろ?」 そこで俺は続けて言った。 「それでさ、ネコ、って言ったら、しっぽがあるよね?」 「はい? ええ、そうですけど・・・」 「でさ、あるんだよね、しっぽ。 桐乃もネコミミと一緒にしっぽもつけてたんだよね。」 「そう、なんですか?」 「結構可愛かったぞ。」 「・・・やっぱり桐乃が好きなんですね。」 ざわ、と、あやせからぶち殺しますよオーラが発せられる。 「ん、まあ、ともかく、 あやせもつけてみない?しっぽ。 きっと桐乃も喜ぶと思うぞ。」 「・・・桐乃のためなら。」 「そうか、そう言ってくれると思っていたよ。」 後ろ手に持っていたそれをあやせに渡す。 「へええ、なんだかかわいいですね。 そういえば結構太くて長いんですね。」 くね、くね、と、うごくそれを掴んで、あやせが言った。 「まあ、人間サイズだからな。」 エロゲやアニメには否定的だが、ネコとか、かわいいものに対しては、素直にかわいいと思えるんだな。 「ところで、これ、どうやってつけるんです?」 「ああ、それはね、はじっこの部分をお尻に・・・」 俺の目線を追って、あやせがしっぽの端の部分を見る。 その形状と、俺の説明から、あやせはその装着方法を悟った。 「っ!!!人になにをさせるつもりなんですか!? こっ、この、変態!!変態!!変態!!!」 耳まで真っ赤にしてあやせが俺に殴りかかってくる。 しかもグーで。 いくら女の子のか細い手とはいえ、全体中が乗ってくると、流石に痛い。 それはそれで、 って違う違う。 ここで負けるな、俺。 「ま、まあ、そう言うなよ。 確かに俺もそう思う。 だがな、これを作った奴によると、より精巧にリアルなしっぽらしさを追求した結果、これしか方法が無いそうなんだよ。 これはな、桐乃の友達がな、桐乃のためにって、作ったものと同じものなんだよ。 言ってみれば、おまえと同じく、桐乃によろこんでほしくて、じゃないか。 だから、桐乃を喜ばせるためにも、これをちゃんとつけてやってくれないか?」 「・・・わかりました。 もう、ここまでやったんです。 だったら最後まで、やります。」 あやせは、そう、決意した。 まず、あやせの尻に浣腸を施す。 衛生のためと、しっぽを円滑に装着するために、必要なのだ。 腸の違和感に、あやせの白い肌が少し血の気が引いているようだ。 「あの、お手洗いをお借りしていいですか?」 もじもじしながら、あやせが言う。 「ダメだ。」 かわいそうだが、俺はそう答えた。 「お兄さん、お願いです・・・おなか、痛いです・・・」 「もう少し我慢してくれ。 全部出さないと、ちゃんとこれを着けることができないんだよ。」 「そんな・・・」 あやせはたまらず涙目になる。 だが、これだけはきちんとしておかないと、後が大変なのだ。 10分が一時間にも、それ以上にも感じられた。 ふるふると震え、腹の中のそれと戦うあやせの表情が、だんだん力無くなってくる。 最初は、きっ、と、俺を敵のような目で見据えていた視線が、だんだんと力無くなり、やがて、懇願するようなまなざしになってくる。 「もう、いい、ですか?」 「おねがいです、このままだと・・・」 「んん・・」 あやせの目から虹彩が消える。 ただそれを堪えるためだけに脳が働き、うつろな表情になったところが頃合いだ。 「もう、いいよ」 にこっと、微笑み掛けてあげると、あやせの瞳に潤いが戻る。 トイレを終え、すべてを出し切ったあやせが戻ってくる。 悔し涙を流したのだろうか、目元が少し赤く腫れている。 「お兄さんは酷い人です」 そうあやせは言うが、俺に殴りかかる気力までは取り戻せない。 「仕方ないだろ、しっぽを着けるには、ちゃんと中まできれいにしないといけないんだから。桐乃の前で無様なことになるのはいやだろう?」 「うう・・」 そういわれては、あやせも言い返す術はない。 「じゃあ、これ、着けようか。自分でできる?」 「やります。 っていうか、あなたに着けてもらいたくないです。」 気丈に言い放ったあやせは、立ったままスカートの中にしっぽの装着部を潜り込ませる。 もぞもぞと、それを臀部にあてがい、なんとかそこに押し込もうとするが、うまく入らない。 暫くの間、しっぽと格闘するあやせ。 しかし、うねうねと生き物のように動くそれが、彼女の股間でだらしなく振り回されるだけで徒労におわった。 「やっぱり無理・・・」 先ほどまでの痴態を恥じる様に屈辱の色をにじませた声で、あきらめの言葉をつぶやいて彼女の手がとまった。 力の無い恨めしそうな目で俺を見る。 「手伝うよ。」 優しさを装ってあやせに言う。 しかしあやせはダメ、ダメ、ダメと繰り返しつぶやくだけだ。 その手元で、しっぽが力無く、くねくねと動いている。 「桐乃に喜んでもらいたいんだろう?」 桐乃の名に、あやせが反応した。 「お願い、します・・・」 俺はあやせをソファに浅く腰掛けさせ、両膝を立てさせた。 「もうちょっとお尻を手前にだして?」 「・・・はい」 俺の言葉に従ってあやせが尻をこちらに向ける。 「じゃあ、スカートを膝のところで持ち上げてて?」 指示通りにすると、スカートの中から清楚な白の下着がのぞいている。 「入れる部分が見えるように少しめくっていいかな?」 こくん、と、無言でうなずいて応える。 おそらく、感情を殺した表情をしているだろう。 なるべく彼女の顔を見ないようにしながら、俺はなるべく装着部位外の恥ずかしい部位が見えないようにパンツをめくりあげる。 「く・・・」 あやせは短く言葉を漏らす。 あやせの繊細なそれは排泄という機能を担った部位とは思えないほどに綺麗だ。 美少女はお尻の穴も綺麗なんだなとか、アイドルはうんちしないよ位の間抜けな感想を漏らしそうになり、俺は努めて平静を装って、尻穴にしっぽの装着部の先端をあてがい、押し込む。 むり、 と、先端部が挿入されると、 「ぐぅ」 と、音ともつかない声を上げる。 「先っぽが入ったから、少しずつ、入れてくからね?」 と、あやせに確認する。 彼女は情けない声を上げないようにと、両手を口許にあてがって、少し涙をうかべて、こくん、こくん、と、うなずいている。 この様子なら、大丈夫だろう。 俺はしっぽを一段一段あやせの中に押し込む。 腸管の中に押し込まれるその度に、あやせは臀部を揺らし、喉を震わせるような声を漏らす。 「もうすぐ、終わるからね。ちょっと力を抜こうか?」 最後の部分が抜け落ちないように、ひときわ大きくなっているのだ。 彼女が尻穴を弛緩させた瞬間に、最後の一段を押し込む。 「かはっ」 あやせは耐えられず、両手を離して声を漏らした。 がくがくと膝が、そして彼女の身体が震えた。 既に目元から涙があふれており、嗚咽をもらし続けている。 俺はあやせの頭に、ぽむ、と手を置き、 「終わったよ。」 と、伝える。 その瞬間、悦びの表情であやせが俺を見つめた それから暫くして、桐乃が帰ってきた。 「ただいま」 桐乃は相変わらず、ぶす、っとした表情を気取っているが、膨らんだ鞄と微妙に喜びを隠せない表情に、どうやらいいことがあったらしいことがなんとなくわかる。 俺はソファに座ったまま、 「桐乃、あやせが来てんぞ。」 と、友人の来訪を告げた。 「うそ、マジで?マズっ。」 慌てて鞄の中身を奥に押し込む。 恐らくあやせに見つかるとまずい類のものを買ってきたのだろう。 池袋にもそんな店があるんだな。 「・・・って、あんた、なんか変なことしてないでしょうね?」 「しねーよ。 居間で待たせるのも悪いんで、おまえの部屋に通しといたぞ。」 「あっそ、ありがと。」 そういうと、桐乃は階段を掛けあがっていった。 よっぽど嬉しかったんだな。 そりゃあそうだよな。 海外で独りぼっちでがんばるために、大好きな友達と連絡を取らないって縛りをして、それでいろいろ無理になって、帰ってきて、それでも喜んで迎えてくれた友達だもんな。 まず、桐乃の歓喜の声が我が家に響きわたった。 暫くして、桐乃が階段を掛け降りる音がした。 最後に、俺の後頭部に桐乃のドロップキックが炸裂し、俺は気を失った。 翌日、まだ痛む頭をさすりながら、昨日の俺はどこかおかしかったんじゃあないか、 と思いながら、家を出た。 道すがら、真奈実が手を振っている。 「きょうちゃーん」 「おう」 いつも通りの朝の風景。 桐乃の人生相談をきっかけに、俺の中で「普通」という言葉の意味合いが変わった。 本当の意味で本当に普通で、大切なこの日々。 だが、今朝はちょっとだけ違った。 「ねえ、きょうちゃん?」 「ん?」 「きょうちゃんって、その、お尻とか、好きなの?」 ぽっと、頬を赤らめて真奈実が言った。
https://w.atwiki.jp/rensyu_2/pages/14.html
ウィンドウサイズ : 800*600 立ち絵サイズ : 500*600 → 胴体部分 + 表情差分 の組み合わせ表示 背景 → jpg? どっかの素材サイトから引っ張ってくる → ある程度目星は付いた 文字表示 会話ウィンドウ形式 表示文字数 30字*4行 システム 選択肢分岐の標準的な恋愛ADV 他 ホイールバックログ セーブ/ロード 既読スキップ BGM/SE音量調整 画面効果ON/OFF (あれば) ライター用 タグのテンプレート 等の実装をお願いします。 イメージ1 イメージ2 ※画面は開発中であり、変更する場合があります。
https://w.atwiki.jp/fushimi_eroparo/pages/495.html
http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1306742825/6-26 俺、高坂京介はいつになくソワソワしていた。 オサレ街にあまり縁のない俺が一人で渋谷なんかに来ていることで、落ち着かないのもあるのだが、それ以上の理由があるのだ。 携帯を開き、時刻とメールボックスに残っている、1通のメールを確認する。 「ここでいいんだよな…」 後ろにある建物――渋谷駅を見て、場所を確認する。間違いない。 まぁ、さっきから何度も確認しているんだが。 辺りをキョロキョロ見渡す。これも何度目かわからない。 「まだこねえか…」 それもそうだ。 約束の時間まで、まだ30分もある。 流石に早すぎたと思うと同時に、溜息をつく。これも何度目だ俺。 とにかく落ち着かない。なにかやっていないと、変なプレッシャーに押し潰されそうになるんだ。 「…ん?」 キョロキョロしていたら、こちらに近づいてくる一人に目が止まった。 黒髪ロング、そこそこの身長に細い身体、整った可愛い顔。 俺が見間違うわけがない。こいつは間違いなく… 「おはようございます、お兄さん」 俺の天使、新垣あやせだ。 「よ、よう、あやせ」 さっきから緊張しているのだが、本人を前にすると更に緊張してきた。 「もう来ていたんですね、待たせちゃいましたか?」 「いや、俺もさっき来たばっかりだよ」 まあ、嘘だが。 1時間前くらいからここにいたのだけど、そんなの苦でもなかった。 「そうですか、それならよかったです」 そう言って、微笑むあやせが見れたのだから。 「ていうか、あやせも早かったな。約束の時間までまだ30分もあるぞ?」 「準備が終わって、時間になるまで待ってるつもりだったんですが、なんだかいてもたってもいられなくなって…。ちょっと早めに出てきちゃいました」 「はは、俺と同じだな」 「お兄さんもですか?」 「ああ。今日が楽しみ過ぎて全く落ち着かなかったぜ」 ちなみに、今も落ち着かない。 相変わらず、心臓はバクバクいってやがる。 「フフ…。それじゃあ、行きましょうお兄さん」 「あ、ああ。そうだな」 今日は目一杯楽しまないとな。 何せ、あやせとの初デートなんだから。 一週間前のことだ。 夜、受験生である俺は、その日の勉強のノルマを達成し、パソコンをいじっていた。 そうしていると突然、マウスの横に置いていた携帯が鳴りだしたので、手に取って画面を見た。 「…ゲッ」 画面は、新垣あやせからの着信を表していた。 新垣あやせは、俺の妹である高坂桐乃の親友で、中学3年生の少女だ。 容姿は端麗で、読者モデルをやっていることからも、その可愛さが窺えるだろう(事実、超可愛い)。 可愛い女の子の知り合いが多い俺だが(自慢じゃないぞ)、その中でもあやせは俺の好みドストライクなのだ。…見た目だけで言えば。 問題は中身である。 見た目通りの清純で、一つ一つの仕草が可愛い子、だと初めて会った時はそう思っていたのだが… その実極度の潔癖症で思い込みが激しく、嘘が大っっっっ嫌いで(特に桐乃の様な親友に嘘をつかれるとヒステリックになる)、大切な存在のため(つか、桐乃限定と言っても過言じゃない)ならなんでもする(殺人も起こせるんじゃないかと思う)、かなり危ない女である。 それに過去、とあることによって、あやせは俺のことを『近親相姦上等変態鬼畜兄貴』と思い込んでおり、誰よりも警戒されているし、嫌われてしまっている。 それでも、桐乃のためにやむおえず俺に相談してきたり、協力を求めてきたりするようになり、少しずつその関係は修復しつつある…と思いたい。 まあ、最近は相談どころか呼び出されて説教という名の脅迫をされることが多くなっている。 そのため、この電話もそのテの話だろうと思い、出るのを少し躊躇してしまった。 しかし、出なかったら出なかったで後々が怖いため、嫌々ながら電話の通話ボタンを押して、耳に当てた。 「…もしもし」 『もしもし、新垣ですけど。今時間は大丈夫でしたか?』 「ふ…、愚問だな」 『はい?』 「俺にとっての最優先事項はあやせ関連全てなんだぜ?お前が俺を必要とするとき、俺は全てを投げ出す覚悟が出来ている!つまり、時間なんか気にすんな!」 『い、忙しいなら忙しいって言っていただいて構わないんですよ…?』 「いや、ぶっちゃけ暇なんだ」 『それなら最初からそう言って下さい!もう…』 「…むう」 おかしいなぁ、前やったエロゲでは同じ様なことを言われたヒロインの好感度、上がってたんだけどなぁ…。何故あやせの好感度は上がった気配がしないのだろう?まだまだ愛が足りないのか。 …いや、ホントに嫌だったんだぜ?あやせから連絡が来るときは、ロクなことがないし。 でも、あやせの声を聞くと、そんなの全く気にならなくなるんだよ。むしろ、とても興ふゲフンンゲフン嬉しくなっちまうんだよ。なんでだろうな? 恐るべし、あやせパワー。 『お兄さん、来週の日曜日空いていますか?』 「だから言っているだろう?あやせのためならどんな用事があろうとも…」 『普通に答えて下さい』 「…空いてます」 相変わらず、俺の愛が伝わらない。 どうすればこの無限に広がるあやせへの愛を伝えることが出来るんだろうか? 『じゃあその日一日、私のお願いを聞いていただけませんか?』 「…今度はなんだ?また(あの糞ガキの)マネージャーすればいいのか?それともお前の家に(説教受けに)行けばいいのか?」 ()の部分を口に出さない理由は察してくれ。 『いえ、その…』 「違うのか?なら、何だ?」 『え、えっとですね…』 「?」 あやせが言い淀むなんて、珍しいこともあるもんだ。いつもはもっとハキハキしてんのに。 よほど言いにくいことなのか、あやせはずっとモゴモゴしている。 「あやせ?俺に頼みたくないなら無理に頼んでくれなくても…」 『い、いえ!むしろお兄さんじゃないと駄目なんです!!駄目なんですけど…』 「…???」 なんだってんだ一体? 俺には、あやせが何を言おうとしているのか、全く見当がつかなかった。 そうやって頭の中が?マークで埋めつくされていっていくなか、意を決したあやせは、俺にこう告げた。 『わ…、私と一日付き合っていただけませんか!?』 「…へ?」 あやせから出た爆弾発言は、俺の頭の中に拡がっていた?マークを全て吹き飛ばした。 しかし、ここで喜ぶのは早計だ。あやせのことだから、安易な考えで答えを出してはいけない。 「付き合うって…何に?」 そう、問題はそこだ。あやせが何かを頼んでくる時は、簡単なことはまずありえない。 何かしらの意図がある…。期待しては駄目だ俺! 『えっと、その…』 『か、買い物に…付き合ってほしいんです』 ―――期待しては駄目だ!! 「…ああ、荷物持ちってことか。そんなに大きな買い物するのか?」 『そ、そうじゃなくて…』 『ただ、お兄さんに来ていただければ、いいんです…』 …おい、これはもしかして―――いや、もしかしなくても… 「あやせ、それはつまり…」 「…デートの誘い、って考えていいのか…?」 『で、デートって…そ、そそそんな…!』 あ、やっぱり思い過ごしだったみたいだ。そりゃそうか、あやせが俺をデートに誘うなんてありえないことだ。 期待した俺が馬鹿だったんだ… ああ、部屋の中なのに雨が降ってやがる畜生… 『で…デートってことで、いいですよ…?』 「…へぇ?」 あやせサン、今なんつった? 「あ、あやせ?今なんと…」 『だから!デートと思っていただいて結構です!!それともなんですか!?私とデートするのは嫌なんですか!!?』 「いえ!むしろ光栄でございます!」 『じゃあ場所や時間はまたメールしますから!それではまた!』 ブツッという音の後にツーツー…と、電話が切れた音が右耳に響く。 ゆっくりと携帯を閉じた俺は、さっきのあやせの言葉を脳内エンドレスリピートしていた。 『―――で…デートってことで、いいですよ…?』 『―――だから!デートと思っていただいて結構です!!』 頬をつねる。 痛い。 「…夢じゃない」 「う、うぉ…」 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」 ガバッと、椅子から立ち上がる。 もう、テンションは限界突破している。 「ヒャッハー!キタコレ!あやせルートついに解禁きたよコレ!!」 「つか俺いつフラグ立てたんだ!?全く覚えないけどもういいやそんなこと!!!」 「ヤッホォォォォォォォォォォォイ!!!!」 思わず両手で万歳をする。 嬉しさのあまり、涙が出てきた。 そうやって歓喜に浸っていると、ドンッと壁が叩かれた音がした。 「あんたマジうっさいんだけど!!人のゲームの邪魔しないでくんない!?」 そう壁越しに文句を言ってきた奴こそ、俺の妹の高坂桐乃だ。 見た目でいえばあやせ以上の可愛さがあり、あやせと一緒に読者モデルをしており、陸上部エースで成績優秀な優等生という、全く非の打ち所がない人物…ってのが表の顔。 「あんたのせいで、るみちゃんの告白聞こえなかったじゃん!どーしてくれんの!?」 「知るか!バックログで聞きやがれ!!」 ちなみに桐乃の言う、るみちゃんとは、最近桐乃が買ったゲームのキャラクターの一人だ。 どんなゲームかって? 妹物の、エロゲーだ。 完璧だと思っていた桐乃に、妹物のエロゲーやメルルという魔法少女系の痛アニメをこよなく愛するキモオタという一面があったことを知ったのは、去年のことだ。 桐乃が落としたメルルのDVD(中身はエロゲーだったが)を俺が拾ってしまったことが、そもそもの始まりであり、それが俺の人生を変えるきっかけになったのは明白だろう。 桐乃に人生相談を持ちかけられるようになり、オタクの友達が出来、桐乃のオタク趣味を擁護するために親父と対決して殴られ、妹と妹の親友が桐乃のオタク趣味のせいで絶交し、その仲直りのために…俺が嫌われたりもした。 考えてみれば散々な目にあってる俺だが、かけがえのないものも増えた。 桐乃を大事にしてくれ、そして俺にとっても大事な親友達。 そこから生まれた、信頼や絆、思い出。 そして何より、それまで冷めきっていた妹との関係が少しずつ変わってきたことが、今までの俺の苦労を拭ってくれる。 まあ、おかげで俺も段々とオタク脳に浸食されていっているわけだが…。 後悔は…あるっちゃあるが、それでもこの道を選んだことを間違いだとは思わない。今ならハッキリそう言えるよ。 「ってかあんた、今あやせがどーのこーの言ってたけど、なんなの?」 「別に、なんでもねーよ」 桐乃の大好きな親友と、大嫌いな兄貴がデートと言ってしまったら…血を見ることになりそうなので、止めておく。 「…ならいいけど、あやせに手を出したら、アンタ殺すから」 …なっ、言った通りだろ? その後、俺はデートの際の心構えという本を本屋で立ち読みしたり、桐乃から借りたラブタッチというゲームでデートの予行練習をしたりと、準備万端のつもりだったのだが… いざ、あやせの前になると、全部抜けちまっている俺だった。 「そういや、今日は渋谷まで来て何処に行くんだ?」 「えーと、お洋服屋さんを何件か回って、行きつけのアクセサリーショップにも行って、あとは…適当にブラブラしましょう!」 「りょーかい」 あやせと一緒に歩けるのなら、どこにでも行くさ。 「そういえばお兄さん、そういう服も持っていたんですね」 「え?…ああ、これか?」 自分の着ている服に目をやる。 「これ、前桐乃が買ってくれたやつなんだよ。あいつの見立てだから、こういう場所で着てもおかしくないかなと思ってな………って!」 ヤバい!この話は…!! 「…ああ、思い出しました。あの時、桐乃と『デート』に行った時に着ていた服だったんですね」 そう言って微笑むあやせの後ろには、ドス黒いオーラが漂っているように見えた。 そう、俺と桐乃はとある事情があって、デートをしたことがある。 腕組んで歩いたり、ハートのフレームでプリクラ撮ったりと、俺にとって究極の黒歴史となった日だった。 あやせがどうしてそれを知っているのかというと、桐乃とのデートの後日、あやせに呼び出されて、何故かあやせが持っていた俺と桐乃のプリクラについて問い詰められたからだ。 あの時は殺されるかと思ったね。いやマジで。 「…まあ、そのことはもういいです…かくの…すから」 「?すまんあやせ、最後の方聞き取れなかったんだが」 俯きボソボソ喋っているあやせの顔を覗き込んで話し掛けると、あやせは何故か顔を真っ赤にして、ズザーッ!と後ろに思いっきり下がった。 「か、顔を近づけすぎですお兄さん!」 「あ、ああ。わりぃ」 そうだった。あやせはいつも俺と少し距離を空けていたっけ。 変態と思っている俺に近づかれて、いい気はしないよなぁ…。 『―――キモ…近づかないで下さい』 「うぐっ!」 突然フラッシュバックしてきた、最も思い出したくなかった台詞。 他でもない、目の前にいる少女に言われた台詞だ。 あぁ、俺ってばまだ気持ち悪がられてんのかなぁ… 浮かれていた気持ちが、急降下してきた。 「お、お兄さん!?大丈夫ですか!?」 胸を押さえて苦しんでいる(様に見える)俺に、あやせが近づいてきた。 「だ、大丈夫大丈夫。…ちょっと嫌なこと思い出しただけだから」 そう言って苦笑いをする俺。 一応、安心させるつもりで言ったのだが、あやせは不満げだった。 「…私といるのは、そんなに嫌ですか?」 「…え?」 「いつも用事を空けておくみたいなこと言ってましたけど…。お兄さんこそ、私に無理矢理付き合う必要はないんですよ?」 「あ、あやせ…」 「…そうですよね。いつもお兄さんに迷惑をかけて、困らせている私と一緒になんて、嫌に決まってますよね。…ごめんなさい、そんなお兄さんの気持ちも考えないで…」 「違うってあやせ!!」 ガシッとあやせの肩を掴む。 不安げな目でこちらを見るあやせの視線が、こちらに向いた。 「嫌なことを思い出したのは確かだけど、それはあやせが嫌だって言ってるんじゃねえよ! 俺がどれだけ今日を楽しみにしていたと思っていやがる!?電話があったその日から、ドキドキしっぱなしで不眠が続くほどだったんだぞ!? それなのに、お前と一緒にいるのが嫌だァ?むしろ逆だ!!俺はお前と一緒にいれて、めちゃくちゃ嬉しいんだよ!!!」 「お、お兄さん…」 ―――言ってやった。 ああ、言ってやったよ。 こいつは思い込んだら止まらないからな、これぐらい言ってやらないと駄目なんだよ。 まあこれで、俺の好感度ダウン確定だが。 …か、悲しくなんてないんだからね! 「ご、ごめんなさい、私…」 「いいんだって。わかってくれたならさ」 どうやら、説得は成功したようだ。思わずホッとしてしまう。 「そ、それよりもお兄さん…」 頬を赤らめてもじもじしているあやせ。 さては恥ずかしいのか?グフフ…。 好感度アップのチャンスだぜ! 「ん?なんだよあやせ」 優しく、好青年をイメージして語りかける。 「み、見られてますよ…」 「…へ?」 辺りを見渡す。 さっきまで普通に歩いていたのであろう、人という人が大勢、こちらを囲むようにして見ていた。 目を光らせている人達、ヒソヒソ話している人達、ヒューヒューと茶化してくる野次馬共エクストラエクストラ。 あやせが恥ずかしがっていた本当の理由を知るとともに、俺もめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。 「あやせ!走るぞ!」 「え?きゃあ!!」 あやせの手を掴んで包囲網を突破する。 「大切にしろよー!」 「リア充爆発しろー!」 様々な野次が聞こえたが、気にしている余裕は全くなかった。 「ハァ…ハァ…ハァ…」 「もう…。飛ばし…過ぎ…です…お兄…さん…」 「ハァー…すまん…」 さっきの場所から結構離れているこの場所まで止まることなく走って来たため、めちゃくちゃ息が上がっている俺達であった。 「あ、このお店…」 「ん…?あやせ…知ってんのか?」 「桐乃とよく来るアクセサリーショップですよ」 「…ああ、ここか」 無我夢中で走っていた俺達だったが、なんの因果かこの店に来てしまうとは…。 「このお店、値段はそんなにしないんですけど、良いアクセサリーが多いんですよ」 「知ってる。来たことあるし」 「え?お兄さん、このお店来たことがあったんですか?」 「ああ、去年のクリスマスイヴに、桐乃にここで1万のピアス買わされたんだよ」 桐乃やあやせからしてみれば、1万円のアクセサリーを買うことなんて普通のことなんだろうけど、バイトもせずに親からの小遣いで生活している俺にとっては、マジ痛い出費だったんだぜ? しかもプレゼントした(させられた)相手が、実の妹だぞ?どんな罰ゲームだよって思ったね。 「…ああ、あのハートのピアス、お兄さんがプレゼントした物だったんですね」 「え、知ってたのか?」 「はい。お気に入りみたいで、よく付けてますよ」 「そ、そうなのか?」 てっきり、使わずにしまってあると思ってたんだが… 思い返してみれば、桐乃がハート型のピアスを付けている時を、何度か見たことがあったな。 なんだかんだで、大切にしてくれてるわけだ。 思わず頬が緩む。 しかし、そんな俺を面白くなさそうに見ているあやせがいた。 「ど、どうしたあやせ?」 「…別に、なんでもありません」 どう見ても、なんでもないなんて顔じゃないけど。 どうにかしたいけど、原因がさっぱりわからないからどうしようもない。 だから、機嫌取りをすることにした。 「あやせ、お前にもなんかプレゼントしてやるよ」 「え?」 「桐乃も、俺も、あやせには世話になってるし、そのお礼をいつか返しかったしさ」 「そんな…別に私は」 「それにさ、せっかくの初デートなんだから、記念に何か贈ってやりてーんだよ」 「き…記念だなんてそんな…」 今日のあやせはよく顔を赤らめるな。今も赤くなっている。 「ほら、行こうぜあやせ」 「ちょ…お兄さん!」 遠慮しているあやせの手を取って、店の中に入る。 どさくさに紛れて、あやせの手を握ったが、ドキドキしすぎて鼻血が出そうになったため、店に入ってすぐ離してしまった。 なんてウブでチキン野郎なんだ俺は。 *** 「本当にそれでよかったのか?あやせ」 「もちろんです、ありがとうございます」 「気にすんなって」 ―――店に入って、欲しい物をあやせに決めさせようとしたのだけど、 『お兄さんからプレゼントしていただく物なら、お兄さんが選んで下さい』 と言って、あやせは俺に選ばせようとした。 もちろん、俺のセンスであやせに似合う物なんて選べねぇって断ったんだけど、頑としてあやせは俺に選んで欲しいって聞かなかった。 仕方なく、ないセンスをフルに稼動させ、必死であやせに似合うアクセサリーを選んだ。 それで選んだのが、あやせが手に持っている、質素な十字架に指輪が繋がったネックレスだ。 十字架と言ってすぐに思い付くのが、桐乃と俺の友達である五更瑠璃、通称黒猫(詳細は今回は省く)だけど、どちらかと言えばあいつはもう少しゴテゴテした十字架を付けるイメージがある(昔、そんな感じのロザリオを買ってやったことがある)。 また、ハートなんかは妹の桐乃が付けているイメージがあるが、清楚なイメージがあるあやせはもう少し抑えているような気がした。 そこで見つけたのが、この十字架のネックレスだ。 シンプルだけど、十字架に繋がった指輪が、質素過ぎないようにアクセントを付けている。 これならあやせのイメージを壊さないで、尚且つ今以上に可愛くなるんじゃないかと…いうのは買った後に考えた言い訳みたいなもんで、実際は俺の中であやせに一番しっくりきた物を選んだだけだ。 喜ばれるか、心配だったんだけど… 「…えへへ」 ネックレスを持ったまま、この調子だ。 びっくりするぐらい喜んでいる。 よほど気に入ったのか、それとも… 俺が買ったことで喜んでくれてるのか。 ありえないとわかっていながらも、そんな期待をしてしまう。 想いは一方通行でも、それを不幸だなんて思ったりはしないさ。 「大切にしますね、お兄さん」 そう言ってくれるだけで、俺は満足だから。 その後、昼飯を食べ、あやせの買い物に付き合ったり(もちろん、荷物は持ってあげたさ)、その辺をブラブラしたりしている内にタイムリミットとなり、俺とあやせの初デートは幕を降ろした。 …いや、まだ終わってなかったな。 今、俺はあやせを家に送っているところだ。 「―――ありがとうな、あやせ」 そう俺が言うと、あやせは何のことかわからないと言いたそうな顔をしてこっちを見た。 「今日お前が誘ってくれたおかげで、めちゃくちゃ楽しい時間を過ごせたからさ」 「そんな…、私だって楽しかったですから、お互い様ですよ」 「ははは、そう言ってくれるとありがたい」 独りよがりの満足じゃなかったと、安心できるからさ。 「それに、プレゼントまでいただいちゃいましたし…、むしろこちらが感謝しきれない気持ちでいっぱいですよ」 いつの間にか付けていたペンダントを触りながら、あやせは微笑んだ。 「…そういえばさ、あやせ」 「はい?」 そろそろあやせの家に着くというところで俺は、今日この日を迎えるまでずっと持っていた疑問を、ぶつけることにした。 「なんで…俺を誘ってくれたんだ?」 今日一日、あやせと一緒にいて、別に桐乃と二人でもよかったのでは…と思えたのだ。 買い物の量が多かったかといえばそうでもないし、俺がいないと行けない場所があったかといえばそうでもない。 普通に、桐乃達と来ても変わらない、むしろ桐乃達と来ていたほうが、もっと楽しかったのではないのかと思ったのだ。 それに、 「お前は、俺が嫌いだったよな…?」 …それなのに、なんで俺を誘ったのか。なんで俺だったのか、わからなかった。 「…お兄さんは、私とじゃなくて、桐乃とデートしたかったですか?」 「は?なんで兄妹でまたデートなんてしなきゃならん?」 何故そこで桐乃が出て来る?話が逸れてんぞ。 「…あれ?お兄さんは桐乃のことを愛しているんじゃなかったんですか?」 「え?…っあ!!!」 しまった…!! あやせの中ではそういう設定だったんだ…!!! 油断してつい本音が出ちまった! 「そ…そりゃ、そうなんだけど…」 ―――ヤバい、うまい言い訳が思いつかない…!! そうやって言い訳を探している俺に、あやせは優しく言ってくれた。 「いいんですお兄さん。私、わかっていましたから」 「…へ?」 「お兄さんが桐乃の事を愛しているっていうのは…嘘だっていうこと」 今あやせは何と言った? ―――わかっていた? 俺が、嘘をついていたことを? …駄目だ! あの嘘は、真実にしないと…!! 「ち、違うぞあやせ!嘘なんかじゃ…」 「もういいんですお兄さん。私、もう大丈夫ですから」 そう言って微笑むあやせは、もう何もかもわかっているのだろう。 俺は、誤魔化すことをやめた。 「…いつから、気づいていたんだ?」 「あの時…公園で桐乃と仲直りして、家に帰り着いた時には気づいていました」 「それって…」 「私、ショックだったんです。お兄さんからあんなことを言われた時…」 あんなこと、恐らくは俺が大声で『妹が大好きだ』と宣言したことだろう。 …ナニヤッテンダカ俺。 「優しいと思っていたお兄さんからあんなことを言われた時、私とても怒ったんですよ?裏切られた気がして、信じられなくて、…悲しくて」 「…でも、初めてお会いした時のことを思い出したんです。自分を犠牲にして、桐乃から届いた荷物を取り上げたのを…あれ、ソッチの物だったんですよね?」 ソッチとは、桐乃がずっと隠していたオタク趣味のことを言っているのだろう。 大当たりなのだが驚きのあまり喋れず、答えられなかった。 あやせはその俺の驚きをイエスと受け取ったらしく、話を続けた。 「その事を思い出したら、わかったんです。あの時、お兄さんがあんな事を言ったのは、桐乃のためだったんだって。桐乃を、守るためだったんだって…」 黙ってあやせの言葉を聞く。 もう、反論する気もなかった。 「でも、それをわかってても、私はお兄さんの嘘にすがりつかないと、桐乃の趣味を見過ごせなくて…あんなメールしか送れなかったんです」 『――大ウソ吐きのお兄さんへ。』から始まるメール。 あのメールは、そういうことだったのか。 メールに感じていた違和感に、やっと答えが出た気がした。 「自分を騙して…お兄さんを憎むことで、無理矢理自分の中で納得させていたんです。…お兄さんに、ずっと甘えていたんです」 「あやせ…」 「本当に、ごめんなさい…!ずっと、酷いことをしてたのに、謝れなくて…」 深々と頭を下げるあやせ。 「き、気にするなってあやせ!俺も怒られて当たり前のようなことしてたし…」 「そうですよ!私が謝れなかったのは、お兄さんのせいでもあるんですから!」 「…へ?」 ビシッと俺に指を指すあやせ。 あれ?フォローしたつもりなのに、俺なんか怒られてる? 「私に会うたび会うたびに、セクハラ行為をしてきて…本当はやっぱり変態お兄さんじゃないのかと何度も疑っていたんですよ!?」 「すみませんでした!!!」 なんてこった! 更にあやせを悩ましてたんじゃねぇか俺!! 「でも、今日一緒にいて、確信したんです」 「…何を?」 「お兄さんはセクハラしてくる変態さんです」 「ぐおぉぉぉぉぉぉ…」 やめて!俺のライフはマイナス越えてるよ! 「でも、優しくて、頼もしくて」 「…素敵な、人です」 「あ、やせ…?」 そう言った、あやせの表情は… とても綺麗で、優しい笑顔だった。 思わず、見とれてしまう。 「お兄さん?」 「…あ、いや!なんでもないぞ!?」 「?変なお兄さん」 ふふっと微笑むあやせにつられて、俺も頬が緩む。 ああ…。やっとあやせと仲直りが出来たんだ。 とても、いやめちゃくちゃ、嬉しかった。 「でも、いいのか?」 「何がですか?」 「桐乃の趣味のこと、認められないんじゃないのか?」 俺の嘘にすがりついていたのは、桐乃の趣味を認められなかったからに他ない。 今、俺の嘘をカミングアウトしたということは… あやせの中で、ある程度の決着が着いたということなのだろうか。 「はい、もういいんです」 あやせは、とても清々しい笑顔で、そう言った。 「桐乃の趣味については…まだ、ちょっと受け入れきれていない部分がありますが…。それがあるからといって私達が喧嘩したりする理由なんてないんだって、今なら思えるんです」 「…そっか」 あの頃から比べると考えられないぐらい、あやせは柔軟になっていた。 あやせも、成長してんだな。 兄でもないのに嬉しく思えた。 「…お兄さん」 「ん、どうした?」 「着いちゃいました」 「へ?…ああ」 いつの間にか、あやせの家の前に着いていた。 一日中ずっと一緒にいたのに、あやせと別れるのが名残惜しくなる。 「今日は本当にありがとうございました、お兄さん」 「こちらこそ、ありがとうな。あやせ」 本当に、楽しかったぜ。 誤解も解けて、今日一日であやせにグッと近づけた気がする。 変態というレッテルは今だ健在だが…こればかりは自業自得なので、仕様がない。 これからは、もう少し気兼ねなく会うことが出来るかな? ―――焦る必要はないか。 時間はいくらでもあるんだ。 でも、セクハラは自重しよう。必要最小限に。 心の中で、自分に言い聞かせておいた。 後ろに向いたあやせは、玄関口の戸を開ける。 あやせの背中が少しずつ遠くなっていく。 少し進んだところで、ピタッと止まったあやせは、こちらを再び向いた。 「―――さようなら、お兄さん」 そう微笑んで告げたあやせが、 『―――…あね…にき…』 「…え?」 一瞬、誰かと重なった気がした。 「あ、あやせ!」 玄関口に侵入した俺は、あやせに駆け寄る。 このまま、別れてはいけない気がして。 このまま別れたら、取り返しのつかないことになりそうな気がして。 「あやせ!また…!!?」 俺が告げようとした言葉は、途中『何か』に遮られた。 「…ん、んん!?」 頭の中が、グチャグチャになる。 今、目の前にあるのは間違いなくあやせの可愛い顔。 そして、俺の口を塞いでいるのは… 間違いなく、あやせの唇だった。 どれくらいの間だったか、長かったような、短かったような、あやせはゆっくりと離れていった。 「あ、あやせ…」 あやせは、今だに混乱している俺に、微笑みかけた。 「お休みなさい、お兄さん」 「…お休み…なさい」 あやせはもう立ち止まることなく、玄関のドアを開け、中に入っていった。 あやせが家に入ったのを確認して、俺も帰路に立つ。 帰り道、心中穏やかでなかったことは、言うまでもないだろう。 ―――もう、大変だったんだぜホント。 フラフラと危なっかしくなりながらも、何とか家に帰り着いたんだけど、その後も飯が喉を通らなかったし、勉強も頭に入らなかったし、寝つけなくて次の日麻奈実から心配されるし、桐乃からなんか蹴られるし。 どんだけ別のことを考えようとしても、零距離のあやせの顔を思い出してしまい、結局元通りになってしまう。 まあそれも4日ぐらい経てば落ち着いてきて、思い出したら恥ずかしいぐらいになったんだけど。 ただ、この後、こうやってずっと浮足立っていたことを、俺は後悔することになるなんて、思ってもいなかった。 *** それは、あやせとのデートから1週間が経とうとしていた、ある日のことだった。 学校から帰ってきた俺は、することもなくまたパソコンをいじっていた。 ちらっと、パソコンの横に置いた携帯を見る。 ―――あれから、あやせからの連絡はない。 少し寂しい気がするし、まあ当然といえば当然のような気がした。 だって俺も連絡しようとしても、出来なかったし。 話したいことは山ほどある。 あの時のことも、…ちゃんと確認したいし。 でも、なんか怖かった。 あれは冗談でしたとか言われたらどうしようとか、ヘタレな想いが勝ってしまい、今だに一歩踏み出すことが出来ていない。 もちろん、すぐに会いたい。 会って、あやせの気持ちを…俺の気持ちを、確かめたい。 そうは思っているんだが…。 携帯を手に取り、開く。 アドレス帳の中の新垣あやせの欄を開き、通話ボタンに親指を当てる。 ここまでいっても、親指に一向に力が篭らない。 「…くそっ」 どうしようもないチキンな自分自身に、悪態をつく。 アドレス帳を閉じて立ち上がり、携帯をポケットに突っ込んで、階下のトイレに行くことにした。 ガチャ トイレに行く途中で、ちょうど玄関のドアが開いた。 おふくろはリビングにいるので、恐らくこの時間に帰ってくるのは、桐乃だろう。 昔の俺なら、速効でトイレに逃げていただろうが、今では桐乃が家に入ってくるまで待っている俺だ。 「おかえり」ぐらいは言ってやろうと思ってな。 大嫌いなはずなんだけどね。 おかしな奴だ。 「…ん?」 家に入って来た桐乃は、俯いてその表情が伺えなかった。 だけど、様子がおかしいのぐらいは、俺でもわかる。 「…ただいま」 桐乃は俺を一瞥し、ボソッと呟いてそのまま階段をあがっていく。 「桐乃!」 俺が声をかけると、ピタッと止まり、こちらを向かずに「…何」と掠れた声で言った。 「…何があった?」 前置きも煩わしく思い、率直に聞く。 「―――別に」 それだけを言った桐乃は、上にあがっていった。 「…ケッ」 答える気はねえかよ。 ああそうかい。 少しでも心配した俺が馬鹿だったぜ。 ―――後で、無理矢理にでも聞き出してやらあ。 その後、飯の時も様子がおかしかった桐乃だったが、おふくろや親父に聞かれても「なんでもない」の一点縛りだった。 風呂から上がり、いざ桐乃の部屋に突入しようと覚悟を決めた時… コンコンと、俺の部屋のドアがノックされた。 開けようとドアに近づいたが、その前に開けられた。 ノックの意味あんまねーしな。 ドアを開けたのは、桐乃だった。 「…どうした?」 「話があるの。私の部屋に来て」 それだけ言って、ドアは閉められた。 相変わらず、俺に選択肢はないのな…。 でも、ちょうどよかった。 無理矢理突入して、(自分の)血を見ることにならずに済みそうだからな。 桐乃の部屋に入ると、相変わらず俯いて、突っ立っている桐乃がいた。 「…んで、どうしたんだよ?」 「………」 桐乃に話を促す。が、一向に口を開けない。 どうやらよっぽどのことがあったらしい。 ここで桐乃を急かすことも出来たが…、あえて桐乃が喋り始めるのを待つことにした。 「……」 「………」 「…………」 「……………」 「……………」 ―――キリがない。 無言大会を開いてても、何も解決しねーだろ俺。 仕方ないから俺から話を聞こうとしたら、やっと桐乃が口を開いた。 「…話ってのはさ」 「ん?」 「…あやせのことなんだけど」 「あ、あやせのことぉ!?」 「…なんであんたがキョドってんの?」 「え?…あ、いや別に深いワケはないですハイ」 あやせのことと聞いて、前のデートのことがバレたのかと思ったが、桐乃の反応を見ると、どうやら違うみたいだ。 「んで…あやせがどうしたんだ?」 「………」 「…桐乃?」 桐乃は肩を震わせ、拳を握っている。 少しだけ、桐乃に近づく。どうしてやればいいかわからないが。 「あやせが、さ…」 桐乃は、震えた声で話を続けた。 俺は黙って話を聞くことにする。 というより、喋れなかった。 こんなに、悔しそうに、苦しそうにしている桐乃を見るのは久しぶりで、俺も困惑していた。 出来ることといえば、唾を飲んで、どんなことを言われても、覚悟しておくことしかなかった。 「海外に…行くって…」 「…は?」 なんだって? あやせが? どこに、行くって…? 「あやせが…!海外に行くって言ったの!!」 怒鳴る桐乃に、俺はどんな顔をしているのだろう。 きっと、説明出来もしない顔だと思う。 今の俺には、どんな表情をすればいいのかわからないから。 「あやせが海外に行くって…どういうことだよ?旅行に行くって話じゃねえの?」 んなわけない。 わかってても、そう願わずにはいられない。 「んなわけないじゃん!海外に移住するって言ってんの!!」 目を潤ませながら、桐乃は叫ぶ。 つかちょっと待て。今、とんでもない事を言ってなかったか。 「移住…?留学じゃねえのか?」 桐乃は頭を横に振り、「違う」と言った。 「あんた、美咲さん覚えてる?」 「美咲…?」 「私があんたに彼氏役になってもらった時に、会った女の人」 「…お前を、ヨーロッパに連れて行こうとした人か?」 「そう、その人」 美咲さん、確か本名は藤真美咲。 桐乃を専属モデルにスカウトしていた、どっかの大手会社の社長だった気がする。なにせ、一度しか会ってないから、あんまり覚えてないんだよ。 美咲さんは、桐乃をひどく気に入っているようで、前に桐乃を本社があるヨーロッパに連れていこうとした。 それを阻止するために―――詳細は省くが、俺が桐乃の彼氏を演じてデートまでするはめになったのだが…。 久しぶりに聞いた名前に、嫌な予感がする。 「その美咲さんに誘われて、海外に行くことにしたって…」 「あやせが…?」 そんなワケがない。 そんなことがあるワケがないんだ。 ガッと桐乃の両肩を掴む。 桐乃は、それに抵抗しようとしなかった。 「お前と離れたくないからって、あやせはお前の海外行きを阻止しようとしていたんだぜ?それなのになんであやせが行くって話になんだよ!?」 そう、桐乃が海外に行くことを阻止しようとしたのは俺だけじゃない。 同じ事務所に所属しているあやせも、内部でいろいろ働きかけていたのだ。 桐乃と離れたくない一心で。 そんなあやせが桐乃と離れてしまうような誘いを受けた…? 離れたくないって言ってたのに、なんでお前が離れて行こうとしてんだよあやせ…!! 桐乃を問い詰めたって、仕方がないのはわかってるけど、こうしないとどうにかなりそうだった。 だけど、桐乃から告げられたのは、意外な答えだった。 「―――私のせい」 「え?」 「私のせいなの…!私が、ずっと海外に行くのは嫌だって言ってきたから…!!」 「お、おい!どういうことなんだよ!?」 「あの後――あんたに協力してもらった後、…美咲さん諦めてくれなかったの」 俯いたまま、桐乃は説明を続ける。 「何度も何度も海外へ行かないかって話をされて、その度に断っていたんだけど…、段々と断りづらくなってきて、それをあやせに相談したの」 そこまで言って、桐乃は一呼吸おく。肩はまだ掴んだままだ。 「そしたらちょっと後に、あやせが『もう大丈夫だから』って言ってきたの。その時は、何にも気にならなかったんだけど…」 「それから日に日にあやせの様子がおかしくなって…、どうしたのって聞いても『なんでもないよ』ってしか言わなかったの」 「なんでもないってあやせは言ってたけど、絶対におかしかったの…!だから、今日あやせを問い詰めたら…」 「海外に行くって…、言われたのか?」 桐乃は、小さく頷いた。 「あたし…信じられなくて、なんでって問いただしたの…!そしたら『私も誘われて、やってみようと思った』って…!」 「―――そんな」 そんな、 そんなの、 「ウソに決まってるじゃん…!」 俺が言う前に、桐乃が否定した。 「あたしが留学から帰ってきた時に、泣いて嬉しがってくれたあやせが、今度は自分から離れて行くことを進んで選ぶわけないじゃん!」 同感だった。 もう桐乃と離れ離れになりたくないと、俺はあやせの口から聞いているのだ。 なのに、全く逆のことをしている。 考えられる理由は、一つだけだった。 「あやせは…」 「お前の代わりに…、海外に行くことにしたのか?」 フッと、肩を持つ力が抜ける。 桐乃はそのまま、ペタッと床に座り込んだ。 「…わかんない。そう聞いても『違う』しか言わなかったから」 力無く、桐乃は言う。 「…でも」 桐乃の肩が震え出す。 ギリリと、歯を噛み締める音が響き渡る。 「どう考えても、そうとしか思えないじゃん!!」 こちらを向いて叫ぶ桐乃の目からは、大粒の涙が絶え間無く零れていた。 「あたしが!あたしがずっと行きたくないって言ってきたから!それをあやせに相談したから!そのせいであやせが…あやせが…!!」 それ以上、桐乃は喋ることが出来なかった。 嗚咽が勝り、もう声が声になっていない。 止めたかっただろう。行くなと言いたかっただろう。 でも、言えるわけがない。 他でもない、自分の為にしようとしてくれてることだったから。 ボロボロになって、鼻を啜って、ヒックヒック言ってる中で、これだけはちゃんと聞こえた。 「お願…い…、助…けて…よぉ…」 俺はしゃがみ込み、桐乃の頭を俺の胸の辺りに抱き寄せる。 いつ頃振りだろう?すっげー昔に、こんな事があった気がする。気のせいかも知れないけど。 「桐乃、俺に任せろ」 俺は誓いを立てる。 桐乃にじゃない。 「俺が、絶対になんとかしてやる」 俺は、俺に対して誓いを立てた。 Prior chapter Fin. br() br() br()